Key words:Superheterodyne,IF Transformer,IFT,455KHz,LUX-170-IFT,LUX,Mica_Trim,LC-Circuit,Quality factor,Selectivity
■このページの目的
真空管時代のスーパーヘテロダイン受信機に使われた中間周波トランスはどんなものだったのか、探ってみます.■中間周波トランス
かつてスーパーヘテロダイン受信機の三要素は、3Sと言われる、感度(sensitivity)、選択度(selectivity)そして安定度(stability)であると言われていました.良い受信機のためには一つとしておろそかにできません.中間周波トランス(以下IFTと省略)はこれらのうち選択度を決める重要な部品でした.1960年代の終わりまでの長い間、IFTはスーパーの選択度を決める重要な部品でした.ここでは、その時代のキーパーツであった中間周波トランスの性能を振り返ってみることにします.
■スーパーヘテロダイン受信機
Superheterodyneは1918年代にE.H.Armstrongによって発明されました.当初の目的は選択度よりも高感度(高増幅度)の実現にあったようです.当時はまだ三極管の時代でした.三極管はプレートとグリッド間の静電容量Cpgが大きいため、高周波の増幅は苦手です.そこで、一旦低い周波数に変換すれば増幅が容易になります.スーパーはそのような考え方から出発したのでしょう.当時から中間周波トランスと言うものは存在しましたが、初期のものは非同調トランスであり、選択度を気にした気配はありません.しかし、徐々にお空も混雑してくると感度ばかりでなく選択度も要求されるようになります.ほどなく中間周波回路に高選択度の同調回路を置くようになりました.こうして選択度を決める部品として発展したのが中間周波トランス・IFTです.
●二つの共振回路の特性
一般にトランジスタ用IFTは単同調にリンク形式ですが、真空管用は複同調形式になっています.二つの共振回路を結合した時の特性を検討します.二つの共振回路を結合する方法には誘導結合と容量結合があります.真空管用IFTは主に誘導結合になっています.共振回路を結合する時には面白い特性が現れます.図・Aのように共振回路どうしの結合が非常に疎な場合にはグラフのように単峰特性になります.距離が遠い(結合が疎)ときには損失も大きいのですが尖った特性になります.徐々に近づけて結合を密にすると損失が減少するとともに、図・Bのようにある点で最大になります.さらに結合を密にすると図・Cのように山が二つに分かれた双峰特性を示すようになります.これは二つの共振回路の周波数がずれているので二つの山になるのではありません.いかに調整しようとも単峰にはなりません.結合が密になると山二つの双峰特性になるのです.今は磁気的な結合の場合を考えていますが、静電的な結合の場合もまったく同じです.図・Dのような回路の場合にはCの値を大きくして行くとある点を境にして同じように双峰特性になります.参考:二つの同調回路を結合して使う回路は、IFT以外にも多くの場所で使われています.おもにフィルタなどですが、通過損失を少なくしようとして無闇に結合を密にしようとする人がいます.コイルを近づけ過ぎたり、結合容量を大きくし過ぎれば双峰特性になります.意図的に双峰特性にする場合もありますが、一般的には単峰特性を想定するケースが多いはずです.無闇に結合度を上げてはいけません.出力が出てこないとか、通過損失が大きすぎると感じるなら別の原因があります.密結合にしてレベル不足を解消しようとするのは誤りです.これは特性を見ればわかりますね.
●中間周波トランスの構造
かつては様々な形式が試行されたようですが、図・Eの形式がほとんどです.これはコアの出し入れでコイルのインダクタンスを可変して周波数調整します.μ(ミュー)同調式、あるいはスラグ同調式と言います.逆に、コイルを固定しコンデンサを可変する方法(C同調式)図・Fもあります.しかし調整のしやすさではコア式の方が優れるようです.μ同調式ではコアの出し入れで結合度も多少変化する筈です.コアの移動で結合状態が変化するとともに、他方のコイルのインダクタンスも多少影響を受けるので、2つの共振回路を相互に調整して追い込む必要があります.C同調では相互の干渉はあまり変化しません.コイルの配置は同軸上に置く方法があるほか、平行して並べる方法もあります.後から結合度の調整を行うには平行に並べる方が有利なようです.その特徴を使ったものがこれから見るLUX社のIFTです.
■IFTの特性を見る
これからIFTの特性をみることにします.メーカー発表の特性図があったわけですが実際を評価しました.
●LUX社のIFT
あまり馴染みのないIFTだと思われます.ラジオの自作全盛期にはSTARとTRIOのIFTが主流でした.LUX(錦水堂)といえば管球オーディオ用トランスが有名です.しかし、ラジオ部品も製造していました.そうした部品はカタログから徐々に消えて行きますが、ロータリースイッチなどは最後まで残っていました.オーディオブームの時代にはアンプなどのセット物を主力にする会社になります.このLUXのIFTは同社がパテントを持つユニークな構造です.TRIOやSTARは同軸構造でしたが、コイルを平行置きしています.C同調式も特徴でしょうか.なぜ平行置きかといえば、あとから結合度を可変できる構造だからです.ユーザが用途に応じて特性を加減できるのです.もちろん、当時のユーザは特性の直視装置など持っていよう筈はないので実際に加減して使った人は稀だったでしょう.せっかくの特徴もあまりメリットはなかったかも知れません.むしろトリオやスターのようにあらかじめ高選択度、ファイファイ、可変帯域のように明確に用途を分けた品揃えの方が直感的です.わかり易いのでユーザには受けたでしょう.しかし結合度を変えたときの特性を探るには最適な教材でした.
外観写真です.IFTと言えば天辺に調整用のネジが出ていると言うイメージが強いです.このIFTはサイドに調整があります.次の写真で構造を見ていただくと良くわかるでしょう.配置の自由度を考えるとサイドから調整する方式は良いとは言えません.調整を考えて配置しなければあとで困ることになります.上下にネジのある普通の(?)IFTならそんな心配も要りません.型式は170型と言うようです.170-X、-Y、-Zの三本組になっています.中間周波二段増幅用です.サイズはTRIOのT-11などよりも背が高くなっています.
内部はこのようになっています.同調コイルは反対側に付いています.こちら側には同調コンデンサがあって、マイカトリマになっています.ベークライトの成型品を土台にして、マイカトリマがネジ止めされています.二個のコイルの取付けネジがこちら側にあって、左側ネジは緩めてスライドできるようになっています.
内部のコイル側です.白いパラフィンで防湿処理されたものが同調コイルです.リッツ線のハニカム巻きになっています.二個のコイルのうち左側は裏側の取り付けネジを緩めてスライドできるようになっています.
●位置調整ネジと目盛り
位置調整できる方のコイルはネジ部分に目盛りがあります.隣のコイルに近いほうが『1』で、遠い方が『8』になっています.観察した結果、このネジはペイントロックされていました.従って、メーカーで調整したままの状態を示しています.初期状態では、コンバータ段(170-X)が一番遠い『8』の位置、他の2本(-Yと-Z)は『6』の位置になっていました.実はこのコイル、このネジの位置の違い以外にはX、Y、Z、の違いはないようなのです.検波段に相当する-Zの2次側巻線は異なる物かと思ったのですが、他とまったく同じようでした.但し、テスタで計ってみるとP-B側とG-F側では抵抗値が異なるので巻き方あるいは巻き線が違うようです.これは-Y、-Y、-Zのどれでも同じですから3本組のIFTとは言ってもコイル位置が異なるだけなのではないでしょうか.
底面から見た写真です.端子が横に並んでおり、少々配線しにくい構造です.底部には蓋はなく、中身が見える構造です.ゴミが入りやすいので気を付けなくては・・.
●初期特性
最初は初段用IFT(170-X)の初期状態の実測結果です.コイルの位置は『8』になっています.綺麗な単峰特性です.-6dB帯域幅は約10KHzです.これ以上離すことはできないのでクリチカルカップリング(臨界結合)なのか、それ以上に疎結合なのかはわかりません.(後の観測と総合するとこの位置がクリチカルカップリングのようです)
初段用IFT(170-X)の可動側コイルを他方のコイルと一番近い位置に動かして見ました.目盛りの『1』の場所です.みごとな双峰特性になりました.結合はかなり密になったということです.先にも書きましたが、2個の同調がずれているからではありません.幾ら調整しても山が一つの状態にはなりません.過結合した二同調回路の特性を良く示していると思います.
次に、目盛りの『4』の位置にしました.可変範囲のちょうど真中です.上の写真よりも結合が疎になっているので二つの山が近づきましたがそれでもまだ過結合です.特殊な用途の場合にはこのような特性が必要とされる場合があります.広帯域なファイファイ用IFTなどです.その場合には、他の共振回路を単峰にして中央部分の窪みを補うか、Qダンプ抵抗を抱かせて山を潰して平坦特性に近づけます.
目盛りの『6』の位置にしました.双峰特性が残っていますからまだ多少過結合です.但し、通過帯域幅をやや広くするにはこの程度の状態で使うのが良いでしょう.中央の窪みも少しですからアンテナ同調回路などの凸型の周波数特性と合わせて概略平坦な特性が得られるはずです.以上のように2つのコイル間隔を変えると大幅に特性を変化できることがわかりました.こうしたことが可能なことがこのIFTの大きな特徴です.ユーザのニーズに応じて一つのIFTが狭帯域にも広帯域にも変更できるのです.
■トリマ・コンデンサが・・・(170-Y)
次に段間(170-Y)はどうなっているか見ました.ところが同調がとれないのです.何故かは写真を見るとすぐにわかると思います.もちろん出荷時にはこんなことは無かったはずですが、ジャンクが私に巡ってくる間にこのようになったのでしょう.右側のトリマコンデンサにはベークの押さえワッシャが付いていません.きっとどこかで紛失したのでしょう.あるいは調整中に割れて脱落したのかも知れません.
そのままでは使えませんから代用品を付けました.白いワッシャが代用品です.トランジスタ用の絶縁ブッシュから適当な物を加工しました.これで正常に調整できました.IFT単独で測定したから気付いたものの、そのまま使っていたら『どうもゲイン不足気味』と悩んでいたかも知れません.うまく同調がとれなくてもそれなりに信号は通過しますから受信機が鳴らないわけではないのです.しかもIF増幅が2段あるとそこそこのゲインにはなりますから初心者は気付かないかもしれません.ジャンク品のIFTを入手したらこうした確認が必要なようです.そうでないとあとで『原因不明の低感度』に悩むことになりそうです.
さて、修理も完了した-Yの特性はどうでしょう.コイルの位置は『6』になっていましたのでそのまま特性観測した結果です.先ほどの初段IFTを『6』の位置でみた特性とまったく同じです.
最後に検波段と思われる170-Zを評価しました.これもコイルの位置は『6』になっていました.上記の-Yとまったく同じ特性です.検波段のIFTは検波回路のインピーダンスが低いことからそれに対応した巻線になっているのかと思っていましたが、このIFTの場合は初段-X、段間-Yとまったく同じようです.もちろん動作時には負荷インピーダンスが小さくなるので共振特性は変化する筈です.しかし、IFTとして見れば同じ物を使っても問題は無いようです.負荷インピーダンスが下がることで動作Qが下がるので、結合もやや疎になります.それを加味して最初から多少密結合にしておけば良いのでしょう.結合度可変型IFTの有利な点です.
■エピローグ(LUX製IFTのまとめ)
いつもお相手していだだいているJA6GZH山田さんが、珍しい構造のIFTをお持ちとのことで借用をお願いしました.先日さっそくお送り頂きました.添えられたメモには、もうお使いにならないとのことで、『じっくり観察してください』とありました.IF2段増幅用のユニークな構造のIFTでした.一般にはあまり見なかった製品のようですが、お持ちのお方もあるようです.構造はユニークでしたが、電気的特性はTRIOやSTARの同軸構造のIFTと際立った違いはありません.他社製は結合度を変えたりできませんが、それを除けば同じようなものです.可変結合度とは言っても、評価手段を持たないユーザはそのまま使うしかありません.それなら最初から用途を決めたIFTの方が好都合だったでしょう.いずれ見掛けなくなったのはそのような理由からでしょう.私がラジオ少年だったころにはもう話題にものぼりませんでした.既に選択度をIFTだけで得る時代は過ぎていたのです.LUXのIFTは通信機の用途は余り考えていなかったものと考えられます.最も結合が疎になる状態がクリチカル・カップリング(臨界結合)であり、密結合方向にのみ可変できるからです.通信機用IFTの場合は臨界結合よりやや疎になるように設計するのが普通のようです.(kQ=0.7程度で設計)
自作のIFT・・・その可能性
2つの共振回路を平行置きする構造でも同軸構造と違わぬ性能が得られます.『頭に調整ネジが出ている』と言うIFTのイメージに拘らなければ自作も容易なわけです.300〜600μH程度の開磁型のRFCを使い、平行に置いて間隔調整をすれば自作IFTが完成します.間隔調整もそれほど難しくないでしょう.最初は距離をおき、徐々に近接させてピークで止めれば良いのです.高選択度型を望むなら少し離し気味にし、音質重視の帯域幅確保型ならもう少し接近させると良いでしょう.同調は固定コンデンサとトリマコンデンサを組合せると調整が容易です.なお、シールドケースに収納すると、インダクタンスは減少し、結合はやや密になります.ケース収納するつもりならケースに入れた状態でコイル間隔を加減します.なお、シールドケースはアルミが良いでしょう.鉄のような磁性金属はインダクタンスと結合度への影響が非常に大きいので避けるべきです.自作IFTのために、薄手のアルミで手ごろな箱(筒)はないだろうかと探しています.
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