Key words:VXO,Crystal,Heterodyne,Single Transistor,BPF,RadCom,HF Low Band,DC-RX,Spurious
■このページの目的
たった1個の平凡なトランジスタで、二つの独立した周波数の水晶発振器とその差周波数を取り出すミキサのすべてを兼ねる欲張った回路の実用性を探ります.ホントにまともな回路なのでしょうか?
■VXO
VXOとはVariable-crystal oscillator(可変周波型水晶発振器)のことです.発振周波数を決めるデバイスに水晶を使い、水晶発振器の周波数安定度と、LC発振器のように自由に周波数を可変できる発振器です.『動かないのが水晶発振だよ』と言う、水晶屋さんの呟きが聞こえてきますが、アマチュアの間では、周波数の安定度と自由度を兼ね備えた発振器として、時代を超えた研究テーマのようになっています.VXO回路は、真空管時代から研究されて来ました.テーマはズバリ、広い可変範囲と周波数安定度です.しかし、真空管回路はストレーキャパシティが大きいので、数kHz(せいぜい10kHz)可変できる程度でした.真空管回路の可変範囲が狭かったもう一つの理由として、真空管はゲインが低いからのようです.FETやバイポーラ・トランジスタ(BJT)の何れも、gmは桁違いに大きいので、発振条件が厳しくて真空管回路では発振できない回路定数でも発振可能なのです.現在では、FETもしくはBJTを使えば表示周波数の0.5%程度の可変範囲が得られます.数%にも及ぶ可変範囲が得られることもありますが、自励発振かと見まごうばかりの周波数安定度では実用的ではありません.得られる可変範囲の定義は難しいのですが、一般に水晶発振の安定度に比べて10倍程度悪くなるのを許容した場合に表示周波数の約0.5%であると考えれば良いでしょう.これは、実験結果からも言えます.水晶発振より10倍も悪いといえば、かなり悪いように感じまずが、LC発振回路に比べればまだまだ良好です.勿論、水晶の種類や回路定数の追い込み方で得られる性能の違いも大きいようです.VXOの可変範囲ついては、雑誌やあちこちの掲示板で良く見かけるテーマですが、一般論として言えるのは上記のような範囲と考えればよいでしょう.従って、7MHz帯で35KHz程度の可変範囲が得られ、実用的な安定度が得られればそのVXOは大成功であると言って良いでしょう.
VXOの設計法について、系統的な実験を行ない、纏めることは一つのテーマになっています.しかし、なかなか進んでいません.現状は、上記の『標準値』の実現を目処に製作しています.将来の課題としてもうすこし具体的な数値に基づく設計法の確立と目標にすべき性能を明らかにしたいと思っています.
■ヘテロダインVXO
安定度を維持しながら期待できる周波数可変範囲は、表示周波数の約0.5%です.3.5MHz帯の水晶なら18KHzくらいVXOできれば成功であると言えます.しかし、JAのHAM-Bandでさえ3.5MHz帯は75KHzありますし、CW専用に限っても25KHzあります.即ち、VXO回路を採用しても1個の水晶ではカバーできません.そこで、可変範囲の絶対値が大きく取れる周波数の高い水晶を使い、それを周波数変換すれば良いことはだれしも思い付きます.もちろん、周波数変換のために別の(水晶)発振器が必要になりますが、広い可変範囲が実現できます.これがヘテロダインVXOです.ヘテロダインVXOの構成要素は、(1)VXO回路、(2)水晶発振回路、(3)ヘテロダイン(周波数変換)回路、そして(4)フィルタです.フィルタは、ミキシングによって発生する不要周波数成分を除去するためにとても重要です.普通、(1)、(2)の回路にはFETまたはBJTをそれぞれ使います.また(3)はFETやBJTのほか、MC1496、SN16913PやSA612と言ったお馴染のDBMを使います.広い周波数可変範囲は実現できるのですが、それなりの部品数になります.
■一粒で三度オイシイVXO?
HF帯Low-Bandで広い可変範囲が必要なら、オーソドックスな手法で手堅く作るのも良いでしょう.水晶を切換えても良いかもしれません.しかし、シンプルなCW送信機やDirect Conversion(DC-)受信機に複雑な回路はちょっと面倒です.水晶切換え式では、丁度良くカバーするように水晶を2個特注しなくてはなりません.安定度を犠牲にして無理やり引張るVXOは旨く行く可能性が低く、再現性にも難があります.そう思っていたときに目にしたのがこれから試作する『一粒で三度美味しいヘテロダインVXO回路』でした.たった1本のトランジスタでVXO、水晶発振回路、ヘテロダインミキサを兼用するものです.多くの機能を少ないデバイスで兼用させる回路は、クリチカルで動作が不安定になるのが普通です.一種イカモノであると言えます.実験回路も、怪しさが漂うものではありますが、実際に試作してみますと、幾つかの条件を満たし、確実にチェックしておけば実用に耐えるものが可能であることがわかりました.このサイトでは再現性に疑問があったり、使用法を誤ると大変な結果を招くものは対象外にしています.しかし、非常に少ない部品で実現できる魅力は捨てがたいと感じ、報告することにしました.
■オリジナル
『普通の水晶発振回路に水晶を2個付けると、2つの周波数で発振するでしょうか?』・・・と言うクイズのような回路です.ごく普通の変形コルピッツ型水晶発振回路そのものです.多少正帰還量が大きめになるような回路定数にも見えますが、VXO回路は水晶1個の普通の時でもやや強めの正帰還が掛かるようにします.ですからごく普通の回路に2つの水晶を・・・という発想のようです.この回路を初めて見たのは何時だったかは忘れましたが、何とも大胆な(アマチュアスピリッツにあふれた)回路だと思ったものです.ただ、発振はするかもしれないが、出力のスペクトルは酷いものに違いないと思い、ちょっと説明を読んだ程度で忘れていました.左図は、Radio Communication誌'98年9月号に投稿された回路で、投稿者オリジナルのものではないようです.
上記9月号の実験を見てからの投稿にしては早すぎるようなので、同じような実験をしていたHAMが他にもいたと言うことのようです.おなじくRadio Communication誌の'98年10月号に掲載された回路です.ちょうどこのころ、広い可変範囲を得るVXOは何が良いのかテーマになっていたようです.JAのHAMの考案とされる水晶をパラに使うアイディアも組込まれています.なお、この「スーパーVXO」なる回路については、いずれ検証してみたいと思っています.記事には、有効な水晶の組合せ範囲などについての記述もあります.おおよそ1:2以内の周波数比でないと旨く行かないという実験結果が示されています.従って、3MHzの水晶と、10MHzの水晶で7MHzを取り出す・・と言う試みはダメなようです.(スプリアスの問題もあって発振したところで実用になりませんけれど)
■実験回路
最初、汎用に使う水晶発振器が作ってありましたので、それに2つの水晶を付けて試したのですがうまく行きませんでした.2波同時には発振してくれません.なるべく奇麗な発振波形が得られるように、FETを使い正帰還量を抑えた設計のためのようです.FETは一般にバイポーラトランジスタ(BJT)よりもゲインが低いのも原因でしょう.そこで、原典に従い、図のように汎用のBJTで試作しました.まずはVXOさせずに発振の確認をしたところ、確実に2波同時発振しました.電源電圧を変えるなど条件を変えても2波同時発振が維持できるようです.BJTを使った変形コルピッツ回路は単独の水晶で発振させても発振波形は良くありません.しかし2波同時発振が絶対条件ですから、ここはBJTでやるのが間違いないようです.トランジスタは小信号用なら何でも良く、2SC372にとらわれず、2SC1815など回路図に記載のものが使えます.なお、発振の信頼性が低いと・・・即ち電源電圧変動や温度変化で発振が停止したり、電源投入時に確実に起動しないようでは使い物になりません.図の回路はVcc=3V程度まで発振が維持でき、電源再投入でも確実に2波ともに発振します.
製作の手順ですが:
以上でシンプルなヘテロダインVXOの完成です.発振の起動特性ですが、常温付近では何ら問題はなく、かなり温度変化しても確実に発振するようです.(低温側の実験はやってません.冬山に持って行く方は、冷凍庫に入れてぜひ実験を.Hi)- 最初はVXOはさせず、単に2個の水晶を付けたときに2波同時に発振することを確認する.
- VXOさせる方の水晶のみにして、単独でVXO発振の調整をする.
- 再び2波発振の状態に戻し、必要に応じてVXOの微調整を行なう.
- 出力にフィルタを付け、スプリアスの状態を確認する.
出力側のフィルタは、オリジナルにも註記がありますが、非常に重要です.但しRadComの回路例のように同調回路1段ではスプリアス除去は満足できず、2段は必要でした.また、2つの同調回路の結合はC結合だけではなく、M結合も入れるのが重要なポイントです.C結合の連続では高い周波数の通り抜けが抑止できません.(おっと、これはノウハウの部分.教えちゃまずかったか.Hi Hi)
なお、回路図にはオリジナルには無いバイアス調整が付いていますが、これについては後で説明します.
使用した水晶です.ICOMなる名前が見えますが、振動子を納入していた水晶メーカーからジャンクに流れたものでしょう.JG1EAD仙波さんがYahooオークションで大量に落札され、希望者に分割頒布して頂いたものを使いました.アクティビティの高い最近の水晶を使うのが良いと思います.無理をしているように見える回路なので成功するか否かは、水晶の性能にも依存します.また、2個の特性が余りに違うとそれぞれの発振振幅が大きく異なり、目的信号が十分得られない可能性があります.実験ですから周波数はどこでも良いのですが、折角ですからハムバンドに入るように水晶を選んでみました.16.354MHzと12.800MHzの水晶で、差周波数は3.554MHzになります.VXOは表示周波数から下の方へ可変します.16.354MHzの水晶をVXOして16.300MHzまで下げられれば、出力は3.500MHzまで行く筈です.
あまりお見せするような物ではないですが、ごく初期の実験写真です.手元にあったFETの発振器では旨く2波同時発振しないので、『ではオリジナルに帰って』と思い、急造したものです.現在、最後にある回路図のような受信機に使ってみようと思い、も少しマシなものを蛇の目基板に製作中です.Hi Hi
■性能評価
オリジナルの記事に具体的な記述はないので、この回路のスプリアスをありのままレポートするのは初めてかもしれません.まずは、まったくフィルタのない状態のスペクトルを観測してみました.う〜ん・・スゴイ! まさしくスプリアス発生器ですね、こりゃ.観測ポイントはトランジスタ2SC372のエミッタです.12.800MHzと16.354MHzのほか、その高調波、さらにそれらの和差の周波数が発生してスゴイ状態です.こんな汚いスペクトルの発振器がまともに使えるんでしょうか・・・?
スペクトルを良く観察すると、目的周波数の上下に大きなスプリアスはありません.少なくとも数100KHz以上離れていればLCフィルタで除去できます.幸い、目的の3.500MHzの上下はその条件を満たしていました.試作回路のような2段同調回路をいれると、ホラこの通り.スッキリ奇麗なスペクトルになります.なお幾つか見えるスペクトルの中には、シャックに漂う中波のラジオ放送や、強力な短波放送が測定に迷い込んでいます.実用にする際はシールドしますからそれらはなくなります.写真のようにスプリアス成分、高調波成分ともに希望信号に対して-60dB以下ですから、ごく普通に製作した発振器と同じか、やや良い程度になりました.普通の送・受信機に使うのなら、問題のない信号純度であると言えます.なお、アクティブ・デバイスはトランジスタ1つであり、途中に増幅段はありませんから、信号の付随ノイズが非常に少ないのが印象的でした.ノイズは複雑なヘテロダイン式VXO回路よりも明らかに有利でしょう.
■バイアス調整の効果
発振とミキサーを兼ねた回路ですから、個々の動作を最適化することはできません.しかし、確実な発振を持続しながら、ミキサーとして有利な動作点もある筈です.また、単なる発振回路として見ても動作点によって高調波の含有率は変化するはずです.従って、バイアスを変えて動作点を移動すれば、出てくるスプリアス成分も変化します.写真は、LCフィルタの後を観測したもので、目的信号の近傍にスプリアスは存在せず、非常に奇麗です.
上記写真の状態は、バイアス調整を行ない、近傍スプリアスが出ないように加減した結果です.最初は確実な発振を行なうのを目的として、かなり大きめの電流を流していました.ベースのバイアスもオリジナルと同じ固定式でした.その状態が左の写真です.主信号に対し、-70dBですから、かなり低いレベルではありますが、スプリアスがありました.これだけ近いと、簡単なLCフィルタで除去するのは困難です.写真はLCフィルタを通過したあとのものです.
水晶の組合せによって、必ずこのようになるわけではありません.バイアス調整程度では除去できないスプリアスが目的信号の近傍に現れる可能性も有ります.この回路の最大のポイントは発振起動特性や周波数安定度ではないようです.簡単なLC回路でスプリアスを回避できる周波数の組合せにあります.必ず実験的に確認する必要があります.受信機なら自身に不都合が及ぶだけですが、送信機に使うには入念な確認が要ります.そうしないとお子様連れの電波を発射するかもしれません.ある日、お役所から・・・貴方の電波が○○の通信を妨害し・・・と言う有難くないお話も.Hi Hi
■80mBand受信機にいかが?
ちょっと脅かし過ぎたかもしれません.しかし、ジェネカバ受信機やスペアナなどで良く確認してから使えば大丈夫です.先にも書いたようにローノイズな信号が得られますから、受信機の局発にも最適でしょう.ダイレクトコンバージョン受信機に応用する例を示します.ヘテロダインVXOを採用しながら、スッキリした局発回路になっています.なお、記載のない低周波アンプ部は必要なゲインが得られれば何でも良いです.オーディオ・フィルタもとても重要な部分ですからご研究ください.良い音のする検波回路ですからSSBerの自局モニタ用にも良いかもしれません.入力信号レベルに気を付けて歪ませないように注意します.
■エピローグ
VXOに肝心な周波数の可変範囲と安定度について触れるのを忘れてしまいました.(Hi) 可変範囲は16.354MHzの発振特性に依存しますが、約54KHzは0.33%に過ぎないので、余裕のある範囲です.従って、周波数安定度は良好ですし、発振状態のクリチカルさも見られませんでした.出力周波数で見て、3.500MHzから3.550MHz+αが楽々カバーできました.ヘテロダインVXOの面目躍如と言ったところでしょうか.VXOコイルには安直に10μHのマイクロ・インダクタを使いましたが、すこし温度係数が大きいようでした.高い周波数のVXOですから、少ないインダクタンスで済みます.トロイダルコアに巻くのも簡単で、温度係数の小さいコアを使うと性能向上します.なお、現状のままでもSSB、CW用として十分な安定度がありました.VXO回路でもう一つ気になるのは、周波数可変に伴う『発振強度変化』ですが、出力側バンドパスフィルタを可変範囲の下端(3.500MHz)で調整したところ、目立った変化は感じられなくなりました.出力電圧は、トランスT2の同調側に約6Vpp得られました.『なんだか怪しい回路』と思ってスタートしました.切掛けは、昨今豊富に出回っている高い周波数の水晶活用に何か良い方法はないものだろうかと思ったことからでした.ラダー型フィルタの実験を行なっていて、どうも適当な周波数は15MHzあたりまでのようだと感じたからでもあります.せっかく安価に出回っている水晶を活用しない手はありません.しかし、あまりにも複雑で高級な回路では何が目的なのかわからなくなってしまいます.安価な素材こそ、シンプルな方法で使うのが一番でしょう.一粒で三度美味しいヘテロダインVXOは試して価値のある回路だったと思います.
参考文献:
- 「Technical Topics Scrapbook 1995-1999」 Pat Hawker,G3VA ,RSGB 2000 ISBN-1-872309-61-5
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