Key words:Tube,Valve,IFT,IF-Trans.,Intermediate Frequency Transformer,6BE6,6BA6,6AV6,J-FET,2SK192,2SK41,RADIO
■このページの目的
5球スーパーを自作するにはIFT(中間周波トランス)が必要になる.すでに製造されておらず、古い在庫(N.O.S.=New Old Stock)やジャンクを活用することになる.あるいは代替品を自作しなくてはならない.肝心の周波数特性をテストしてから使いたいものだ.評価用治具を製作しておこう.ジャンク品の劣化もわかるし、代用品の実力もわかるだろう.
■中間周波トランス:IFTとは
真空管式のラジオに使われていたANT/OSCコイルの評価と製作は既に扱った.また中間周波トランス・IFTを評価した結果を報告している.5球スーパーに代表される、スーパー・ヘテロダイン型受信機(ラジオ)の構成については該当のページを参照して欲しい. IFTはスーパー・ヘテロダイン型のラジオにとって、選択度(分離度)を決める重要な部品である.また、選択度ばかりでなく、良い音で受信するには必要な帯域幅が確保されているのかも重要である.高選択度なら良い訳ではなく、忠実度重視なら広帯域が必要だ.ラジオの用途目的に応じた特性でなくては困る.最終的にはラジオに組上げて総合特性を評価すればよいはずだ.ところが、真空管用のIFTは古い在庫品、あるいは外しジャンク品しか入手できないのが現状だ.価格も高騰している.そこで代用品を試みる必要も出てくる.怪しそうなジャンク品や、自作代用品を使うなら予め良否を調べておきたいものだ. しかし、過去にIFT単体の測定方法が紹介されたことはなく、昔の雑誌にも書かれてはいない.そもそも市販品の評価など必要はなく、そのまま使えば良かったからだ.付属の説明書に特性は書かれていた.わざわざ測定器を用意して、ユーザーが自ら評価する必要などなかったのだろう.このページでは、IFT単体テスト用の治具を製作する.その使用結果も報告しよう.合わせてトランジスタ用IFTを使い、同等品を試作した結果を報告する.現在のニーズに応えられたら良いと思う.
真空管時代のIFTである.増幅素子としてはgmの低い真空管を使って十分な増幅利得を得るためにハイ・インピーダンスになっている.共振ピンピーダンス(Z)がわかれば、Gain=gm・Zで計算できるのだが、カタログではその様な表現になっていない.測定条件を規定するのが難しくちょっとした変化で結果が大きく異なってしまったからであろう.ハイ・インピーダンス回路なので測定はなかなか難しい.そこで、使用する真空管を予め想定して段間のゲインで示されていた.周波数特性も測定が容易な総合特性で示されるのが普通であった.
測定のための回路を示す.現代の部品と技術を使えば、ハイ・インピーダンスとは言っても、数100KHzなら容易に計測できる.一番のポイントはドライブ側のインピーダンスを高くすることにある.高抵抗で結合する方法もあるが、減衰が大きいので測定しにくい.そこで、アンプ形式で製作することにした.FETのドレイン・インピーダンス(真空管のプレート・インピーダンスrpに相当)は、455KHzのように低い周波数では十分高い.一般に100KΩ以上を示す.ここでは、カスコード形式で更に高い出力インピーダンスを確保するとともに、帰還による再生作用、或いは発振が起こらないようにしている.ハイ・ゲインは目的ではないので、ソース抵抗のバイパス・コンデンサを省略している.それでも約33dB(=約45倍)のゲインを持つので、入出力を離してストレートな回路配置に心がける.使用する際は、ゲインが高いことを考慮し、アンプを飽和させないことが極めて重要である.
なお、トラジェネ+スペアナで測定する場合を考慮して、一般的な50Ωの入・出力インピーダンスに直結できるように設計している.この治具を使えば正しい特性が測定できる.但し、飽和させないように入力信号レベルの加減が必要で、オシロスコープで出力波形が歪んでいないことを確認するべきだ.スペアナを使うような人には常識だと思うが一応念のため. 高級測定器を持っていても測定技術がPoorでは正しい結果が得られぬばかりか、初歩的な質問をするようでは無知をさらけだすことになる.ベテランは過去の技術的な裏付けの元に高級測定器を使っているのであり、高級測定器を持っているからベテランなのではない.勘違いして初心者が高級測定器など手を出すと恥の上塗りになる.シンプルな測定器で十分な修練を積んで、高周波測定を良く理解してからでも遅くはない.そのころには測定器を見る目もできるだろう.
図は真空管用のIFTがどのような条件で動作しているかを示している.合わせて、FETのカスコードアンプの適性についても説明している.真空管回路に詳しければ理解できるだろう.
テスト回路の開発にあたって、実際に試作実験を行なっている様子である.真空管で作ると大掛かりになるが、半導体なら簡単に作れる.測定精度を確保するには、回路をコンパクトに作りストレーキャパシティを少なくする必要がある.従って、わざわざ条件が得にくい真空管を使うのはナンセンスと言うものであろう.FETは電極間容量も小さく、真空管以上に周波数特性が良いので測定回路には最適だ.
下記の写真はトラッキング・ジェネレータ+スペクトラム・アナライザの組合せで行なった.しかし、たかがIFTの測定にその様な測定器は必要ない.発振器とレベル計で周波数特性を測定し、簡単にグラフにプロットすれば十分だ.ピーク周波数、-3dB、-6dB、-20dB、-40dBの各周波数を読取って点を結んでやれば特性がわかる.信号源にはDDSオシレータのように周波数が安定している発振器があればよい.テストオシレータなど各種の発振器が使える.写真は自作の一例として、秋月電子通商で売っているDDS発振器キットを100円ショップの箱に組込んだ一例である.このような物で十分だ.
レベル測定にはオーディオ用のミリバルなども使用できる.ミリバルは一般に1MHz程度まで周波数特性が延びている.従って目的の計測に十分使用できる.或いは、写真のような自作レベル計でも良い.写真の物は高周波用の広帯域Log電圧計で、比較的容易に自作できる.(このレベル計の詳細はCQ Hamradio誌2006年4月号P124〜P129を参照)
さっそく、測定してみよう.写真は、上の方の写真にある真空管用IFT・TRIO・T-21Aの単体特性である.455KHzを中心に100KHz幅で観測している.うまく測定できているようだ. T-21Aは通信機用の小型高選択度型3本組のIFTである.写真の帯域幅は-6dBの値である. これでジャンク品のIFTの良否判定も容易にできるだろう.
上記と同じTRIO・T-21Aを455KHzを中心に200KHz幅で観測している.T-21は通信機用なので、臨界結合(k・Q=1)以下にできており、尖った通過帯域特性になっている.高選択度型IFTの特徴であろう.本サイトにあるLux社製のIFTと比較して欲しい.
■トランジスタ用IFTを真空管用に代用する実験
真空管用のIFTを製造する会社は既に国内にはない.おそらく海外でも殆どないはずだ.真空管の時代が終わって久しいのだから当然であろう.真空管用IFTの評価を思い立ったのは、ジャンク品の良否判定もあるが、むしろ代替品を比較検討したいと考えたからである.写真は、トランジスタ・ラジオ用の10mm角のIFTである.真空管用と比較して非常に小型である.当然、大きなものと同じような性能は期待できないと考えるところだ.しかし、コイルとして評価するとそれほど劣ったものではない.真空管用IFTのQは高いものでもQu=150程度である.多くの場合、Qu=100位のものだ.トランジスタ用IFTのQも実は同じ程度である.多くの場合Qu=100程度はあるようだ.Qと共に、ゲインに関係する共振インピーダンスも重要だ.共振インピーダンスZ=ω・L・Qである.周波数は同じ455KHzであり、Qもほぼ似た程度とすれば、問題はLの大きさである.真空管用のIFTではおおよそ800μH〜1mH程度のインダクタンスになっている.トランジスタ用はどうかといえば、これもほぼ同じ程度のインダクタンスだ.従って、理屈の上では真空管用IFTを使った場合とほぼ同じ選択度とゲインが得られるはずだ.
図は、トランジスタ用IFTを真空管用として使う方法を示している.Fig.1AとFig.1Bの方法がある.なぜ2個使わなくてはならないかといえば、真空管回路に適したハイ・インピーダンスを得るためと、2つの共振回路の結合度を加減して必要な選択度を得るためである.真空管用IFTでは、アルミ缶の中に2つの共振回路が内蔵されていて、2つの間隔・距離で結合度を加減している.トランジスタ用IFTでは、構造上コイルの間隔距離による結合度の加減は簡単に出来ないので結合度をコンデンサで加減することになる.Fig.1Aのようにリンクコイル側にコンデンサを入れて行なう方法と、Fig.1Bのように共振側を小容量で直接繋ぐ方法がある.リンクコイルを使う方法は大きな結合容量が使えるうえ、クリチカルではないように感じたのでそれを主体に実験してみた.Fig.1A、Fig1Bともに、原理を示すものであって、実際に真空管式ラジオに使う場合にはFig.1CとFig.1Dのように部品の耐電圧に考慮した実装方法を考えなくてはならない.トランジスタ用IFTの耐電圧はせいぜい50V位であろう.従って、結合コンデンサで耐電圧を稼ぐ必要がある.
Fig.1Aの回路で、C1の値を470PFとした特性である.455KHzを中心に100KHz幅で見ている.470pFはまだ臨界結合(k・Q=1)に達しておらず、疎結合の状態である.高選択度が要求される通信機に向いた状態と言えるだろう.T-21Aより少しQuが低い関係でやや帯域幅は広めだが、大差のない性能であることがわかる.一般の5球スーパー用IFTよりずっと高選択度である.なお、注意すべきは、『470pF』は特性測定を行なったIFTでの値であって、トランジスタ用IFTに一般的に使える値ではない.実際に入手したものを評価回路で確認し、それぞれ容量を決める必要がある.以下すべて同じ.
上記を455KHz中心に500KHz幅で観測した様子.非常に先鋭な特性であることがわかる.これは単体測定なので、2〜3段のIFTが使われる実機では帯域外減衰特性も十分に得られる.なお、周波数の高い方で裾を引くのはコンデンサで結合した時に現れるもの.但し、2段以上で使うから実際にはあまり問題にならない.
Fig.1Aの回路で、C1の値を680PFとした特性である.455KHzを中心に100KHz幅で見ている.結合がやや密になった関係で少しブロードになった.臨界結合一歩手前といった状態だろうか.リンクコイルの部分で結合すると、結合コンデンサが大きく変化しても顕著な変化はないので使い易い感じがする.
上記を455KHz中心に500KHz幅で観測した様子.トランジスタ用IFTとも思えない、なかなか良い特性であろう.真空管用IFTにヒケを取らないと思うのだが・・・.
Fig.1Aの回路で、C1の値を1000PFとした特性である.455KHzを中心に100KHz幅で見ている.ほぼ臨界結合になっており、頂端部に平坦な帯域が見られるようになった.-6dB帯域幅も広くなっており、家庭用の5球スーパーにはこの程度の特性が適当であろう.470pFより少しばかり通過損失が減るのも中間周波増幅1段のラジオには有利だ.選択度もまずまずなので混信の除去と、良い音質が両立できる.
Fig.1Aの回路で、C1の値を1500PFとした特性である.455KHzを中心に100KHz幅で見ている.臨界結合を過ぎた過結合になっており、頂端部に多少窪みが出ている.-6dB帯域幅もだいぶ広くなっており、AMラジオでHi-Fiを目指すには良さそうだ.選択度が甘くなるいことから、隣接して強力な放送局があると混信が心配になる.しかし、ローカル放送専門と考えればとても良い音が楽しめるだろう.短波帯を対象としたラジオにはあまり向かない.
上記を455KHz中心に500KHz幅で観測した様子.結合 Cが大きいので上側がだいぶ裾を引くが、余ほど放送局の近傍でもなければ、問題にはならないだろう.
これは、Fig.1Bの回路で、C2の値を5PFとした特性である.455KHzを中心に100KHz幅で見ている.リンクコイル側を使わない方法だ.トランジスタ用IFTの活用は、この方法が多いようだ.C2の値は同調容量やコイルのQに左右されるから、実際に特性を確認してから決めた方が良い.耐圧の高いトリマコンデンサを使えば任意に加減できるが、特性直視装置がないとかえって調整が厄介であろう.固定コンデンサの使用を薦めたい.
■エピローグ
他のページの繰返しのようになるが、最近は真空管ラジオの入門本が沢山でている.電池管ラジオキットを学研が発売するに及んで、ラジオマニアではない一般の人も手を出すようになった.しかし、真空管用の電子部品は既に30年も前に製造が終わっている.海外の在庫を発掘する動きも見られるが、事情は途上国とて同じであろう.いずれ在庫は枯渇する.コイル類、特に真空管用のIFTは枯渇の度合いが激しい.オークションに登場すれば何千円もの値がついている.酔狂なお方も居られると、嘲笑される向きも多いだろう.同時に、お気の毒にさえなってしまう.もし、ラジオを作ると言う目的にその部品が唯一無二であり絶対不可欠なのであれば相応の対価を支払うのも止むを得まい.しかし、電子回路を知る者の目から見れば無知のなせるワザとしか映らないのではないか.おそらく、それに代わる方法を知らないからなのだろう.
十分に実用的で、むしろ怪しい昔の部品を使うよりも良い成績が得られる方法がある.それをご紹介する必要を感じてこのページを纏め始めたのであった.しかし、しばらく公開を躊躇してしまった.それは、高価なレトロ部品を欲しがるお方は、その部品の機能が欲しいのではなく、『見掛け』が欲しいだけなのではないかと思ったからだ.トランジスタ用のIFTが同等かそれ以上の性能で代替できることを示したところで見掛けは同じにはならない.昔のラジオ少年が求めているものは、『ノスタルジー』であって、ラジオの性能や機能ではない.性能を技術的見地から解決できたとしても、受け入れられないだろうと思ったのだ.
そう思っていたときに、・・・『昔バリバリ作っていたというホンモノのラジオ少年だった人はセラフィルでも10ミリ角のIFTでも「使えればイイジャン」となるんですが・・・』・・・と言う私が思ったようなご意見を頂きました. 同時に、『「入門用」「初心者向け」っていう位置づけのお手軽部品としては受け付けてくれるようですから、公開の意味も充分あろうかと思います.』と言うご意見もありました. さらに、無線の大先輩からは、『本物のラジオ少年は、技術の魅力に取り付かれたのであって、美術品的な「工芸」に惚れたわけではないのですね. 』と言うホンモノのご意見も頂戴しました.このようなことから、『本物のラジオ少年』に目覚めるお方が少しでもあるのなら、意味もあるだろうと考えて、このIFTの測定と代替の実験を公開することにしたのである.
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