Key words:Varicon,Polyethylene Film,tuning capacitor,Variable capacitor,AM-Radio,FM-Radio,Super Heterodyn
■このページの目的
同調周波数を可変するにはバリコンが必要です.このページでは、安価に市販されているポリバリコンを探ってみます.受信機用のエヤーバリコンは製造されておらずジャンクも目立って減ってきましたので、入手容易なポリバリコンを積極的に使いたいものです.
■ポリバリコン
ポリバリコン(POLYVARICON)とは、ポリエチレン・フィルムを誘電体に使ったバリコン(可変容量蓄電器)です.1950年代末にミツミ電機(三美電機)によって開発された超小型可変蓄電器の商品名です.トランジスタの特徴を活かすためにあらゆるラジオ部品の小型化が進められた時代でした.初期のトランジスタ・ラジオでは電池管ポータブルラジオの部品を流用していました.しかし、前時代の流用では小型化も限界になり、あらゆる部品の再検討が進められます.初期の目標はワイシャツ・ポケットサイズのラジオでしょう.小型化はバリコンも例外ではありませんが、単純な小型化では必要な静電容量が得られません.エヤーバリコンでは極板間隔を狭くすれば製造が難しく、バラツキも大きくなります.極板を薄くすればスピーカ内蔵のラジオではハウリングも起こります.おのずと小型化には限度があります.そこで、誘電率が空気よりも大きな誘電体を使えば小型化できるはずです.そうして開発されたのがポリバリコンです.
もちろん、バリコンはラジオの周波数安定度(=容量安定性)、感度(=低Loss)、選択度(=High-Q)などを決める重要部品です.小型化してもそれらを犠牲にできません.更に、ダイヤル操作によって頻繁に回転する部品ですから機械的な寿命も重要です.一見小型でチャチな印象を与えるポリバリコンですが、エヤーバリコンに劣らぬ電気的性能と機械的寿命を要求された部品です.上手に使えばエヤーバリコンに劣らぬ同調回路を構成できるでしょう.ポリエチレン:
比誘電率は約2.2です.誘電体損失は高い周波数まで小さく、テフロン樹脂よりやや劣りますがかなり優秀です.また、柔軟であり滑りも良いので摺動寿命も長く安定性に優れます.吸湿性が低く、フィルム状にしたときの耐電圧が高い(40kV/mm)のも特徴です.均一な厚みのフィルムも容易です.そして安価です.こうした特性からバリコンの小型化に最適な材料として選ばれました.その優れた高周波特性から同軸ケーブルの内部絶縁体としても広く利用されています.実用温度の上限は約75℃であまり高くないので注意が必要でしょう.面白い用途としては、スキー板の滑走面にも使われています.
■ポリバリコンとアマチュア無線
ポリバリコンはラジオの部品なので、無線の世界には余り縁のない部品と思われてきました.無線機の同調回路はガッチリしたコイルとHigh-Qなエヤーバリコンで作るのが通り相場の感があります.もちろん、送信機など電力を扱う用途では単に共振すれば良いワケではありませんから電力的にも安定なエヤーバリコンが必須です.しかし、受信機なら電力の心配はありません.エヤーバリコンと同程度の電気的性能と機械的な安定性が維持できるなら、十分検討に値する部品であった筈です.ところが1980年代も後半になるとバリコンを使った無線機(受信機)は殆ど皆無になっていました.おそらく検討の機会もなく過ぎたのでしょう.また、一段劣った簡易部品のイメージを与えるので、積極的に使おうとしたアマ無線機メーカーもなかったのでしょう.
非常にうるさい安定度を要求されるVFOにあっては、良く吟味したエヤーバリコンが最適です.しかし、他の部分、例えばプリセレクタや可変型のBPF等にはどうでしょうか.LC共振回路のQは、ほとんどコイルで決まります.幾らHigh-Qに作ってもコイルのQが500を超えることはまずありません.普通はせいぜい200くらいのものです.また無負荷Qは高くても回路に入れたときの負荷Qはせいぜい50〜150です.ポリバリコンのQは低いのですが、まともなものなら少なくとも1,000以上はあります.従って、一般的な同調回路用としては遜色ないでしょう.容量安定に関しても、VHF帯のFMラジオの実用例を見れば極端に劣るとは思えません.同様にHF帯でもQは十分高いでしょう.
自作に役立つ『可変容量部品』として積極的に評価したいと思います.実際、プロ用通信型受信機のプリセレクタに使用例があります.構造上、アースが取りにくい、シールドが良くないと言う欠点もありますが、外側に銅テープを巻いてアースすることで改善できます.多連VCにあっては段間の結合も軽減できます.トロイダルコアで小型化した同調回路には小さくて便利な部品でしょう.なお、ポリバリコンの耐電圧は公称50V程度です.また通過電力の規定はありません.しかし、実力的には100V以上の耐電圧があります.さらに数W以下のQRP送信機用として、アンテナチューナ等は可能です.もちろんハイ・インピーダンスを示し電圧給電になるアンテナでは耐電圧で制限をうけます.また、電極取り出し構造が電力向きではないので低インピーダンスで高周波電流が大きくなるアンテナでは電流容量に注意が必要です.その用途を保証するものではありませんが、低電力なら送信用として使える場合もかなりあります.
■ポリバリコンいろいろ
ジャンク箱を探したら色々なポリバリコンが出てきました.ラジオ少年だったころ、『子供の科学』や『初歩のラジオ』と言った雑誌記事のラジオを製作するために購入したものでした.あるいは部品取りのためにトランジスタラジオを分解したものもあるでしょう.回路の小型化を目的に購入したこともありました.更に、エヤーバリコンの代用を検討すべく最近になって購入したものもあります.最近はポリバリコンすら入手が困難と聞きますが、それはごく特定の種類を皆が欲しがるからです.実際には代用可能なものがたくさん溢れています.ちょっとした見る目があれば幾らでも使えるものを探せます.なお、結構デリケートな部品であり、製造には高い技術が必要なようです.国産の一流品で事故の経験はありませんが、外国製では数回まわしただけで内部のポリエチレンシートが外れジャムってしまう粗悪品を見掛けます.まともな品なら破損するほどの外力を加えたり、無理に回すなどしなければ心配ないようです.今でもミツミ、ALPSほか往年の国産優良品をジャンク屋の店頭で見付けるのは容易です.
■多連ポリバリコン
このバリコンは、新品ジャンクとして現品限りの通販ショップから入手したものです.エース電子と言う聞いたことのないメーカー製です.何個か試しに購入してみたのですが、活用できそうなバリコンでした. まったく同じものは売りきれたとしても、同様に活用できるポリバリコンはまたまだ見かけます.
たくさんの端子が出ているので、どのように使うのかわからないと購入を躊躇するかもしれません.想像ですが、このバリコンはAM/SW/FMラジオのほか、TVをカバーした製品に使われたのでしょう.推測できる理由として、AMラジオ用の2連バリコン、FMラジオ用の2連バリコン、そしてバリキャップを駆動していたであろうBカーブの可変抵抗器が連動するからです.また、AMラジオ用のバリコンが等容量2連になっており、トラッキングレス型ではないことから、中波以外も含まれていたのでしょう.これら種々の受信バンドをカバーするために、たくさんの端子が出ています.またポリバリコンには、トラッキング調整用のトリマコンデンサが複合されていることが多く、このバリコンでも4個のトリマコンデンサが背面に付いています.これらを複合した構造であるため、非常にたくさんの端子になっており、あまり馴染みのない人にとってはワケがわからないバリコンだと感じてしまうでしょう.しかし、全部の機能を活かす必要はなく、どれかの部分を使うだけでも十分に活用できます.この種のバリコンを見付けたら手に取って見ることをお薦めします.
■回路図であらわすと・・
現物を見ると非常に複雑で、どう使ったら良いのか迷いそうですが、回路図に書き直せば理解も容易です.このバリコンは、AM/SW用の2連バリコン、FM用の2連バリコン、そしてバリキャップ(可変容量ダイオード)駆動用のボリウム(可変抵抗器)の集合体です.その他にバリコンと独立した4つのトリマーコンデンサ(半固定コンデンサ)が付いています.なお、多くのポリバリコンは、駆動軸が電気的にアース電位なるように使うことを想定した構造になっており、AM/SW用、FM用のアース側端子は共通になっています.(このアース端子は駆動軸にも接続されています)
このバリコンの機能を箇条書きにすると・・
- AM/SW用セクション:(min)10pF〜(max)275pFの等容量2連バリコン
- FM用セクション:(min)3.5pF〜(max)22.5pFの等容量2連バリコン
- TVチューニング:約100KΩのBカーブ可変抵抗器内蔵
- トリマコンデンサ:(min)1〜(max)9.5pFの4個のトリマコンデンサ
・・が複合されたものと言うことになります.
■端子接続
現物で端子の接続を説明します.
まず、AM/SW用セクションです.Front/Rearと言うのは、バリコンをパネルに取付けたときにパネル寄りがFrontであることを示します.前後の位置関係はアンテナコイル、OSCコイルを配置するときに重要になる場合があります.なお、引きだされた端子はステーター(固定極板)の方です.ローター(回転極板)側はシャフトを通して共通になっており、Common端子に引きだされています.通常、このCommon端子を回路のアース電位に接続して使います.
多くのAM/FM用ポリバリコンでは、AMセクションはトラッキングレス型になっています.トラッキングレスバリコンは、AMラジオを作るにはパッディングコンデンサが省略でき、トラッキング誤差も少ないので好都合です.しかし、ANT回路側(大容量:例えば160pF)とOSC回路側(小容量:例えば70pF)の容量が異なっており、中波のAMラジオ以外には適しません.等容量2連バリコンなら非常に汎用性があり、長波〜中波〜短波まで幅広く使えます.従って等容量型2連バリコンの方がHAM用には便利に使えます.見分け方は簡単で、内部の2つのセクションを見て厚み(極板数)が異なるようならトラッキングレス型です.同じ厚みなら等容量型でしょう.なお、セクションを独立して使う用途、例えばVXO用などには、トラッキングレスバリコンでも何ら支障はありません.むしろ最大容量が小さめなので使い易いこともあります.
FM用セクションです.AM/FM用バリコンではFMセクションが一番手前に来るようになっているようです.これはシャフトの固定状態が最も安定している前面に置くほうが機械的に安定するからで、周波数安定度がシビアなVHF帯のFM用セクションを優先するためです.FMラジオのフロントエンド・チューナー部にこのバリコンを取付け、最短配線で組み付けることを想定し、端子も短くなっています.FM/AMラジオを作るのでしたら、バリコンの構造に合った回路配置をすべきでしょう.昨今、VXOやVFOに使う20pFとか40pF程度のバリコンは入手難で価格高騰していますが、このFM用セクションを単独もしくは並列に使うことで十分代用できます.
可変抵抗器のセクションです.このようなセクションが付いているバリコンは珍しいものです.一般の可変抵抗器は270度回転ですが、これはバリコンと同軸ですから180度回転です.本来は、TV用のV/UHF電子チューナ部の同調用バリキャップ(可変容量ダイオード)に印可する電圧を変えるためのものでしょう.一つの同調ノブでAM〜UHF-TVまでカバーできるようにしたのでしょう.このVRの応用方法ですが、バリキャップを駆動して、更なる多連VCと等価なものを作ったり、バリコンはVFO部に置いて、同調回路をバリキャップで構成してプリセレクタとのトラッキングをワン・ノブで行なうなどが考えられます.また、メーターを目盛代わりにする同調ダイヤルなど面白そうなアイディアが浮かびます.バリコンの回転角をPICマイコンに取込みたい場合にも利用きるでしょう.
端子説明の最後は、背面のトリマコンデンサです.ポリバリコンではトラッキング調整用のトリマコンデンサが内蔵されている場合が多いようです.このバリコンでは汎用性を高めるため(多バンドラジオを作るため)に、バリコン部分とは独立したトリマコンデンサになっています.但し、回転板側は共通した端子になって左右に引きだされています.上記の回路図と構造を比較して確認して下さい.ポリバリコンでは、ものによってトリマコンデンサが予めバリコンと内部で並列接続されていることもあります.そのような場合には独立した端子の引出しはありませんが、バリコンの裏面を見ればトリマコンデンサの有無はすぐにわかります.利用面から言えば、独立したトリマコンデンサの方が良いのですが、内部接続された構造のものでも、不要なら最小容量の位置に回し切って使えば特に支障はありません.
■容量カーブを調べる
ラジオに使うには、トラッキング調整のポイントを決めるために、回転軸の角度と容量の関係を知っておかねばなりません.市販のカタログ製品なら、特性は公開されていますから改めて調べる必要はありません.しかしジャンク品のデータを正規に入手するのは困難でしょう.幸い、容量の計測は容易にできますから、実測すれば良いのです.写真は、分度器に穴を開けてバリコンを取付けた例です.このようにして角度と容量の関係をかなり精密に求めることができます.ポリバリコンの軸と取付けネジの位置関係はあらかた決まっていますからこのような分度器を用意すれば、色々なジャンクを調べるのに重宝します.
AMセクションの回転角と容量の関係を実測したグラフです.このバリコンは、完全に180度回転せず、175度迄だということがわかりました.ポリバリコンではこのようなものも多いようです.なお、可変抵抗器の変化も調べておきました.グラフは同じバリコンをお持ちならそのまま利用できますが、他のバリコンでも求めるのは容易ですからジャンクを入手したら調べておくと良いです.容量の測定器には本サイトに掲載してある『小容量計』が最適です.
■ポリバリコン活用術
幾つかポリバリコン活用のヒントを考えてみました・・・
- そのままラジオに使う
もちろん、AMラジオやFMラジオ、あるいはBCL用ラジオにも使えます.- VFOに使う
FM用のセクションを使うほか、AM用セクションを使ったHigh-Cな同調回路は面白そう.- VXOに使う
FM用セクションをパラに使ってmax40pF、あるいはAMセクションに直列容量を入れて使えば良い.- プリセレクタを作る
2連バリコンなので同調回路を重ねたプリセレクタを作って受信システムの性能を改善する.- ループアンテナ
受信用同調型ループアンテナはTop-Bandでは非常に効果的.バリキャップよりもバリコンがFB.- 多周波発振器を作る
当り前ですが、多連バリコンですから発振回路切換式のシグナルジェネレータなどの製作に便利.- QRP用アンテナチューナ
5W以下のパワーならポリバリコンで作れます.エヤーバリコンより小型なので移動用に便利.
・・・まだまだ幾らでも有りそうですがあとは工夫で.
■エピローグ
いまどきバリコンなんか・・・と言う声も聞こえてきそうです.今や何でも電子同調になっており機械的な可動部分はなくなっています.通信機の世界でも、1980年代からアッパーコンバージョン形式に移行し、入力回路はバンドパスフィルタ(BPF)式になり、同調操作は不要になりました.しかし、どのような回路でも不必要な信号は可能なかぎり入力部分で制限し、必要な信号のみを扱うべきなのは正論です.より高性能化を目指した昨今のトランシーバで、再びプリセレクタ形式の同調回路が復活しているのはそのためです.しかし、同調回路に肝心のバリコンはもはや家電用の部品として再生産されることはないでしょう.バリコンが無ければバリキャップ(可変容量ダイオード)があるではないかと言う意見もあるでしょう.しかし、バリキャップは端子に印可される電圧により容量が変化するデバイスです.信号レベルが非常に小さなうちはバリコンと等価として扱うことも出来ますが、信号レベルが大きくなればそうも行きません.ポリバリコンはトランジスタ・ラジオの専用部品と思われて、無線の世界で注目されたことはありませんでした.小型化が目的の部品ですから、構造的にガッチリしていることを望むのは無理があります.しかし電気的な特性はなかなか優秀であって、同調回路を構成した際には、エヤーバリコンとあまり違いを感じません.電力を扱う回路には適当ではないのですが、受信機など小信号回路では支障なく活用できます.バリコンできちんと同調をとったプリセレクタを置けば、今まで不満に感じてきた多信号特性を改善できるかもしれません.特に低い周波数のHAM-Bandは非常に強力な海外放送バンドに挟まれています.そうした超強力な放送波を少しでも除去し受信機のRFアンプやミキサーの負担を軽減することは受信システム全体のパフォーマンスを改善することに繋がるでしょう.もちろんそうした用途でもポリバリコンは十分活躍できるはずです.
(c)2005 Takahiro KATO All rights are reserved.
Not for republication in any form without written permission.