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■このページの目的
戦後再開からおよそ15年間、高一中二は日本のアマチュア無線局の標準的受信機でした.その最後を飾るのがトリオ(現・ケンウッド)の9R-59D/DSでした.SSB化に押され消え去りました.どんな受信機だったのか振り返えります.
■高一中二
2つ違いの兄弟が学校に通ってるのではありません.高一とは高周波増幅一段、中二とは中間周波増幅二段と言う受信機の構成を示します.高一中二は完成された通信型受信機の形態として、戦前から戦後しばらくは標準でした.受信機の歴史は真空管の発明とも密接に関係があります.5極管の発明により少ない段数で高ゲインが得られるようになりました.さらに受信機の回路構成では米・E.H.アームストロングの発明になるスーパーへテロダイン式が高性能の決定版になりました.アンテナで捉えた電波を高周波、中間周波、低周波の各周波数帯に変換しながら増幅します.その結果、1000万倍(140dB)にも及ぶ増幅度を安定して得ることができ、高感度を実現しました.経済性と性能のバランスが取れた通信用スーパーヘテロダインが高一中二です.AM波(AMラジオ放送と同じ)とCW(無線電信)を対象とした受信機としては十分完成された形式です.一般家庭にあった5球スーパーもスーパーヘテロダイン形式ですが、その構成は、高周波増幅ナシ、中間周波増幅一段です.微弱な信号が相手の無線通信では、高一中二受信機が事実上最低限の構成です.従って5球スーパーよりも、最低2本の真空管が余分に要ります.■完成した愛機にコールサインを
『完成した愛機にコールサインをはってください』というキャッチコピーは鮮明です.その当時、親にもらったラジオを改造してSWLをしていました.球数も多く、メカフィルを内蔵し、しかもオールウエーブ(今風に言えばジェネカバ)の通信型受信機は夢そのものでした.いつかキットを組立てて、開局したらコールサインを貼るのを夢見ました.しかし、\19,900-は何年掛かっても手が届きそうにありませんでした.(写真にあるJA1YKXはトリオのクラブ局)
■1960年代・夢多き時代
当時のラジオ雑誌・初歩のラジオから懐かしい60年代を振り返えりましょう.最近リバイバルした、電子ブロックの当時の広告です. ブロックを並べるだけでハンダ付けなしに色々な回路が作れます.少年たち憧れのアイテムです.しかし、私はあまり魅力を感じませんでした.それと言うのも、ハンダ付けはもう上手でした.この値段ぶんの部品を買えばもっと高級なものが作れるはずだと思ったのです.それと、下の方、DR-7デラックス・タイプのお値段はキットの9R-59Dとほぼ同じです.当時の物価は今の5分の1以下ですから、かなり高価なのです.
高度成長の時代でした.エレクトロニクス機器は輸出の花形で、自作も全盛でしたから部品も豊富に出回りました.広告は今もニュー秋葉原センターに健在の小沢電気商会です.まだニュー秋葉原センターは無かったのでお店は秋葉原にありません.広告上段は真空管価格表です.ポピュラーな送信管・UY-807は350円とお手ごろです.それに比べ新鋭の6146は1,400円もしました.当時のハイパワー定番、813に比べて4X250Aが安価なのは面白いです.強制空冷管はポピュラーでなく、ソケットやチムニーの入手が難しかったのでしょう.下のトランジスタの価格表を見ましょう.品種も豊富になっています.シリコントランジスタも豊富になりましたが、2SC287までしかありません.汎用Trの代名詞、2SC372はもう少し後の登場です.私はトランジスタ党で、良く使ったのは、2SA52、2SA53、2SA70、2SA71、2SA156、2SB54、2SB56、2SB111、2SB128などのゲルマニウム・トランジスタでした.初めて使ったシリコンは2SC15(SONY)で、ジャンク品でした.50MHzで0.5Wくらいの送信機が作れました.シリコンの小信号用はNECの2SC182〜185(マイクロディスク)が最初の汎用品でしょう.しかし、ラジオくらいならシリコンの必要はないので安いゲルマをもっぱら使いました.近所のOMさんにはトランジスタに何の違和感も持たないのが不思議に見えたようです.Hi
ちょっと雑談が過ぎました.9R-59Dに戻りましょう.
9R-59Dが発売されたのは1966年ですが、随分後になって入手したものです.もう誰も高一中二受信機を見向きもしないころでした.ハムフェアで出物を見つけ、ぶら下げて駅まで向かったら、たくさんの視線を浴びました.物好きな奴だと思われたのでしょうねえ.
9R-59Dをリニューアルした、9R-59DSです.オリジナル9R-59Dの塗色はグレーですが、DSはグリーン掛かったミリタリー調です.しかし回路的にはまったく同じです.当時は物価上昇も激しかった時代なので、発売の三年後にはキットの9R-59Dは\19,900-から9R-59DSの\22,800-へと値上げされます.しかし完成品はむしろ値下げされ\26,900-が\25,500-になります.量産効果で値下げできたのでしょうか。しかし、キットに量産効果はなく、手間がかかるので値上げしたのでしょう.「作るHAM」も減少し、キットのニーズもなくなっていました.この9R-59DSもキットではなく完成品でした.さらに珍しいことに、改造もまったくされていませんでした.
パネル正面です.AF-GAINツマミの飾りが脱落していますが、他は奇麗です.簡単な拭き掃除だけで、レストアはしていません.最初からこんな感じでした.暫く通電していませんでしたので、安全のためにスライダックで徐々に電源電圧を上げました.部品の劣化も感じられず、そのまま正常に働きました.中古ですが使用時間も短かかったようです.SSB時代にもなるとHAM局のサブ受信機としても不十分でしたから早々にお蔵入りしていたのでしょう。
こんな感じに向き合って受信していた訳ですね.お使いだった方は懐かしいでしょう? Sメーターが元気に振れていますが、7MHzを受信しています.何だかワクワクしてしまいます.
独特の2重ツマミです.使いにくいと言う声もありますが、ここが9R-59Dの特徴の一つでしょうね.ツマミについては下の写真もご覧下さい.
銀色のリングがメイン同調です.グレーのツマミがスプレッド同調です.このように同軸構造になっています. 構造上難しかったらしく、残念ながら、フライホイールは付いていません.そのため、先代の9R-59(C)や先々代の9R4/42Jのダイヤルの方が滑らかに感じます.
バンドスイッチです.550KHzから30MHzをカバーするオールウエーブです.しかし、IF=455KHzのシングルスーパーですから、Dバンド(10.5〜30MHz)はBCLならともかく、HAM用には殆ど使い物になりません.ハイバンドは別売のコンバータSM-5/Dを付けて3.5MHz帯に変換するとか、自作のX-talコンバータ(クリコン)などを用意しないと実用的ではありません.感度、イメージ比、周波数安定度の全てが悪く、10MHz以上は実用的ではありません.ちょうど14MHzがオープンしていたのでワッチしてみました.そこそこ聞こえましたが局発の引張りがあって、SSBがマトモな音になりません.もちろん、電源に定電圧放電管(スタビロ)は入っていますよ.
先代の9R-59(C)まではAMとCWの時代でしたから、2極管検波にBFOで十分でした.しかし、59Dの時代ともなると、SSBを意識せざるを得なくなりました.そのため、6BE6を使ったプロダクト検波でSSB復調に対応しました.しかし、2極管にBFOよりは数段マシですが、検波入力を加減してやらないと歪っぽい音です.本格的にやるなら、双3極管のプロダクト検波と水晶発振のBFOが必要だと思います.AGCもSSBには最適でなく、改造したい衝動に駆られます.Hi
BFOは自励発振です.発振周波数は455KHzと低いのですが、それでも安定度は不十分だと感じます.安価にするにはやむを得なかったのでしょうが、やはり水晶発振にしたいですね.
左側の窓、メインダイヤルの様子です.目盛りは円周の外側から内側に向かってD→C→B→Aバンドです.いま、スイッチはCバンドなので、7.1MHZあたりを受信していることになります.如何せん、この目盛りだけでは周波数は良く読めません.そこで、スプレッドダイヤルを使うわけです.カーソル線の下に、○の中にB1とB2と言う文字が見えます.これはスプレッドダイヤルを使うときにメインダイヤルを合わせておく位置です.(HAMバンドの上端に合わせます)
右側の窓、スプレッドダイヤルです.HAMバンドだけは結構良い精度で周波数が読めるようにできています.7.009MHzを受信しているところです.HAMバンド以外でもスプレッドは機能しますが、同調補助の意味しかありません.メインダイヤルを目盛り板に書いてある○にA、B1、B2、C、Dの位置に合わせると、スプレッドダイヤルの目盛りから詳細に読めるようにできています.しかし、元々が目の粗いメインダイヤルですから、そんなに旨くは行きません.実際には、水晶発振のマーカーオシレータを使いバンドエッジで目盛り合わせする必要があります.一般には3500KHzの水晶をマーカーにしていました.スプレッド目盛りを7.000MHzに置き、メインダイヤルをシビアに微調整して合わせます.このようにすると、7MHzのハムバンドでは1KHzくらいの精度で読み取れます.但し、そのためには入念なトラッキング調整が必要で、不十分だと精度が出ません.この9R-59DSは入念にトラッキング調整してあるので、7.000MHZで校正すると、7.100MHZでの誤差は2〜3KHzと言う所でした.これはこの手の受信機としてはなかなかです.スプレッドダイヤルを使わない時には、スプレッドバリコンを抜いた位置、即ち、9R-59Dで言えば、スプレッドダイヤルを右に回し切り、均等目盛りで100の位置にしておきます。そうしないとメインダイヤルの目盛りが狂ってしまいます.(トラッキング調整するときにも要注意)
■9R59D/DSのデジタル化について
9R59D/DSの受信周波数を100Hzの桁までデジタル表示化するシンプルなアダプタを開発しました.HAM BandのSSB受信にはたいへん効果的で、海外放送の待受け受信も簡単になりました.この種の受信機の実用性アップを望むなら以下のページもご参考に.
●参考ページ: 『お手軽デジタル表示アダプタ/Simple Digital Readout for Your Radio.』
9R-59D/DSに適したマーカーオシレータの回路です.(ダイヤル・キャリブレータとも言います)ON/OFFはRF-Gainのツマミに付いているスイッチを使います.電源B+は定電圧放電管で安定化された電圧を与えた方が良いです.回路図ではヒータの配線は省略しているので忘れずに.真空管は6BA6のほか、6BD6、6AU6、6CB6、6BZ6、6DK6、6AK5などが使用できます.ピン接続は6BA6と異なるものもあるので注意が必要です.水晶振動子はFT-243、HC-6/Uなど大型のものを推奨します.9R-59D/DSのシャシにはマーカーオシレータのために、真空管と水晶のソケット取付け穴が最初から開いています.(定電圧放電管の横のあたり)部品さえ集まれば1時間も掛からずに付加できます.真空管を使った例を示しましたが、トランジスタを使った例は取扱説明書(下記)に出ています.正確な周波数読取りの為に、マーカーオシレータは必須ですから付加することをお薦めします.もっとも、上記のデジタル表示を付けてしまえば、マーカーオシレータなどまったく不要になりますけれど・・.
背面から見たところです.同軸コネクタは後から付けたもので、オリジナルではコネクタ左側にあるネジ式の端子板がアンテナ入力です.8ピンのUSソケットは送信機と組合せるときにスタンバイのコントロールに使います.通常、単独でこの受信機を使う場合、ピン1-3番、及びピン4-5番をそれぞれショートしたプラグを挿入しておきます.この9R-59DSはもはや送信機とペアで使うことはないだろうと考え、各ピン間をUSソケットの裏側で直接接続してあります.もちろん必要があれば元に戻せます.左端のVRの軸はSメーターのゼロ調整です.
■9R-59Dの内部
まず、シャシ上面を全体です.中間周波増幅以降はプリント基板化されています.高周波増幅、局部発振、電源部は従来の配線方法です.ざっとホコリを払ってありますが入手時から中も奇麗でした.前オーナーも、買ってはみたものの、あまり使っていなかったのでしょう.
メイン同調の3連バリコンです.max430pFの標準的なバリコンです.ダイヤル駆動は糸掛け式です.ギヤダイヤルは高価でしたから、安価で十分な減速比を得るには最適だったのでしょう.糸の張り方が素直なのでバックラッシュもほとんど気になりません。
スプレッド同調の6連バリコンです.低い周波数のバンドでは2セクションずつ並列に使います。高い周波数のバンドでは1セクションを遊ばせます。こうして低い周波数でも、高い周波数でもスプレッドの具合が適当になるようにしています.
同調ダイヤルの裏側はこのようになっており、同軸構造の糸掛け式でうまくダイヤルをまとめています.
アンテナトリマのバリコンです.アンテナトリマとは、使用するアンテナによって、アンテナ同調回路の同調点がずれるのを補正し、トラッキングを改善するために使います.通信型受信機には無くてはならない物で、どんな受信機にも付いているのが常識でした.安価そうなバリコンですが、ベアリング軸受けなので片持ちタイトバリコンよりスムースです.トラッキング調整のときは、バリコンの羽が半分入った位置に固定しておき、調整終了まで手を触れないようにします.
ここでブロックダイヤグラムを見ておきます.ごく標準的な高一中二受信機の構成です.先代の9R-59(C)と異なるのは、局発やBFOに6AQ8を採用、6BE6のプロダクト検波を採用、整流管はやめたなどです.定電圧放電管はオプションですから8球受信機です.本当は8R-59Dと呼ぶべきか・・・.Hi
まずは高周波増幅、周波数変換、局発、中間周波増幅の部分です.写真中央よりやや上のシールドケースが被せてあるのが局発の6AQ8です.双3極管の片側は遊んでいます.その下が混合管(Mixer)の6BE6です.アンテナから入った信号はシャシ下のコイルパックを通り、写真中央下側に見えるシールドされた高周波増幅管、6BA6で増幅されます.Mixerで455KHzに周波数変換された信号は中間周波増幅へ導かれます.中間周波増幅はプリント基板化されており、写真左側の茶色のベーク片面基板に実装されています.性能の均質化に効果があったと思われます.中間周波増幅にも6BA6を使っています.なお、高周波増幅に6BZ6を使ったらどうかと言う意見もありますが、ハイバンドで効果があるかも知れません.しかし、周波数安定度、イメージ比などを考え、実用的に使えるのは3.5MHz〜10MHzです.この範囲では6BZ6にする意味は殆どありません.むしろゲイン過剰なのでリモートカットオフ特性が良く、AGC制御特性が優れている6BD6の方が良いくらいです.
これは、中間周波増幅回路にあって、周波数選択度を決めているメカニカルフィルタです.背の高い方が、東光製の簡易メカフィル(MF-Hシリーズ)で、背の低いほうはグリッド側のマッチング用トランスです.TRIO御自慢だった通信用IFTもついに限界があると判断し、簡易型ながらメカフィルを採用しました.9R-59(C)のT-11型IFTよりずっと良く切れますし、Q-Multiのような不安定感もありません.このメカフィルはトランジスタ・ラジオ用に開発された2ポールの簡易型です.9R-59D/DSでは2個使いスカート特性を改善しています.しかし、あくまでも安価な簡易型ですから、Collinsのメカフィルのようにと言う訳には行きません.それでもT-11よりずっと改善されたのが体感できます.簡易メカフィルは東光から数種類がしばらくの期間販売されていました.その後セラミックフィルタの改良が進み、高性能で安価な製品が供給されるようになりました.簡易メカフィルは、たぶん価格競争に破れたのでしょう.今ではもう製造されていません.もしこのメカフィルが劣化しているようなら、セラフィルとトランジスタラジオ用455KHz・IFTの組合せで代替できます.その方が古い在庫品を探すよりも安価ですし信頼もできます.
東光製メカフィルの資料:TOKO-MF Data Sheet(PDF/780KB)(頒布禁止・個人的利用に限る)
検波から低周波出力増幅までです.写真左がプロダクト検波の6BE6です.この回路は復調歪みを最小にするための動作点の調整が必要です.しかし、無調整で程々の性能が得られれば良いと言う回路定数になっているようです.BFO回路も基板化されています.IFTのようなシールド缶にBFO-Coilが入っています.BFO発振管は6AQ8です.(写真中央のシールド筒に入った球)この6AQ8の片側は低周波増幅に使っています.スピーカーを鳴らすためのパワーアンプは一番右側の細身で背の高い真空管、6AQ5です.トリオはビームパワー管が好きだったようで、9R42J/59(C)では6V6GTを使っていました.9R-59D/DSでは6V6GTのミニチュア管バージョンである6AQ5を使っています.真空管は全て松下製です.松下製が好きだったらしくオーディオ機器でも同社製の真空管を多く使っています.真空管の種類を少なくして、コストを下げる努力をしているのもわかります.6AQ8のようなオーデイオ向きの球を使っているのはコストの関係でしょうか.たぶん八重洲無線なら東芝の12AT7を使うでしょうね.どちらも同じような特性ですけれど・・・.
電源トランスの横に付いている定電圧放電管0A2/VR-150MTです.赤紫色の放電色が何とも妖しいです.Hi 電源電圧の変動によって局発の発振周波数が変動するのを防止するために使っています.しかし、定電圧放電管は通信機用の電子管なので少々高価です.したがってオプションになっていました.ソケットと配線は最初から定電圧放電管を想定してありますから、単に空いているソケットに装着するだけです.しかし、製造も遠い昔に終わっており、昨今は良い定電圧放電管は高価で入手も困難です.むしろ半導体式の安定化電源を組込んでしまうのが良いでしょう.性能向上も期待できます.
定電圧放電管には寿命があり、ジャンク品には放電はするが電圧が安定しない『不安定電圧』放電管さえあります.『良い』定電圧放電管を使って下さいと言われても困るでしょうから、むしろ図のような半導体式にすると良いです.入手しやすく安価な半導体を選んで設計しました.部品代は全部で300円くらいですから手軽に製作できると思います.半導体なら寿命が来ることもありません.トランジスタはシャシに絶縁して取付けるなどして必ず放熱するようにしてください.部品は全部サトー電気の通販で購入できます.
2SC2552のデータシート:2SC2552_datasheet(PDF/164KB)
2SC2333のデータシート:2SC2333_datasheet(PDF/168KB)
シャシ下側です.真中のコイルパックが大きなスペースを占めています.中間周波増幅以降をプリント基板化したため、非常にスッキリしています.
コイルパックをクローズアップしてみました.TRIOからはコイルパック単体でも市販されていましたが、ほぼ同等の物でしょう.周波数安定度、イメージ比など高周波性能の殆ど全てがここで決まってしまうだけに大変重要な部分です.しかし、構造、配線、使用部品などを見ると通信型受信機としては少々お寒い感じです.
RF回路とIF基板の裏側です.特にシールドなど行なっていません.ヒーター配線の片側が必然的にシャシになる基板パターンになっているのが気になります.
こちらはプロダクト検波以降、低周波出力段までのプリント基板です.プロダクト検波回路部の裏面にはシールド板がハンダ付けされています.信号レベルの関係で誘導ハムが乗りやすいためでしょう.
電源回路です.整流はシリコンダイオードです.B電圧も低めに抑えてあります.近代的な受信管には200V以上のB+電圧は必要ないからです.低い電圧で使う方が真空管の寿命も延びます.極端に低い電圧にしなければ性能の低下はありません.ドロッパー抵抗とブロック・コンデンサを組合せた標準的な電源回路です.スペースは十分あるのでPower-MOS-FETを使った安定化電源に改造してやると最良です.ヒーター回路もトランスから両側を配線で引くようにすべきです.帰路がシャシになるようなヒーター配線は良くありません.
パワートランスの容量はDC85mAとなっています.8球の受信機ですから十分でしょう.しかし外部供給の余力は殆ど無いでしょう.付加回路は半導体で作るべきです.
9R-59DSの回路図です.輸出版の9R-59DSの回路ですから電源トランスの1次側が少々違います.他の部分は同じです.下記の取扱説明書にも回路図は含まれています.
取扱説明書(英文)9R-59DS_Manual(PDF/12.7MB)
■調整と特性
シャシの底ぶたを取付けた状態です.9R-59D/DSの調整は必ず底ぶたを取付けた状態で行ないます.外して調整するとフタをした際に狂ってしまいます.また、この底ぶたは十分ネジを締めておいて下さい.軍用受信機のようにシャシが強固ではないですから底ぶたも重要な機械的補強部材だからです.そうしないと筐体を少し動かすだけで周波数が飛んでしまいます.このような理由からフタを締めてから調整できるように穴が開いているのです.
調整箇所を示すラベルです.交互に調整して追込む箇所もあるのですが、不用意に回しすぎると各ネジ山がバカになってしまいます.そうなるとちょっとした衝撃で調整がずれてしまう不安定きわまりない受信機になります.手順を十分理解したうえ、適切な調整用器具と測定器を準備し、最小の調整回数で追込むようにします.一般に、トリマコンデンサやコア入りボビンのネジは、数回〜数十回程度の回転寿命しか想定されていません.ダイヤルツマミのように何千回、何万回も回せるようには出来ていないのです.素人が調整した機器のコアやネジがユルユルになっていて不安定になってしまった例をたくさん見ました.なるべく少ない回数で終了すると言うのが調整の秘訣です.
メーカー発表のイメージ比を示すグラフです.IF周波数455KHzのシングルスーパーですから受信周波数が高くなるとどんどん悪くなってしまいます.Cバンド、Dバンドの上端では20dBを割るというありさまです.これではイメージ混信が聞こえる筈です.プロ用のシングルスーパーが高周波二段増幅になっていたのはイメージ比を改善するのが目的で、ゲインアップは二次的なものでした.ハイバンドで実用にするには外付けのプリセレクタで補うか、コンバータ付加によりダブルスーパー化するのが現実的な対策です.
メーカー発表の選択度を示すグラフです.AMの受信用ならマズマズと言えますが、CWやSSBには明らかに不十分です.HAM用に使うのなら、もっと良いIFフィルタに換装する必要があります.しかし、あまり切れるようにすると、周波数安定度が悪いですから信号が逃げてしまいます.どこかを少し良くする程度では間に合わない、イヤハヤたいへんな受信機なのです.Hi
スペックをまとめたものです.製造後ずいぶん年数が経過していますが、この9R-59DSもだいたいこのスペックには入っているようでした.もちろん、出荷時のままではなく途中の再調整は実施しています.
■真空管のある光景
9R-59Dと言う受信機を少し詳しく紹介してみました.何となく憧れを持っておられる方も多いと思います.今となっては改造したところで実用性は低いでしょう.しかし、夜になって聞こえて来る中波の遠距離民放をゆっくり探ってみましょう.部屋の灯を落とし、真空管の輝きを見ながら少年の日々を懐かしんでは如何でしょうか.あの頃の番組が聞こえてくるかも知れません.
ノッポの出力管、6AQ5です.真空管式受信機の『音』の根源が、Aクラス動作の出力管にあったことを思い出させてくれるはずです.奥の方には定電圧放電管の妖しい光りも見えています.
■エピローグ
59 Over !
いつになくペダルを踏む足に力が入っていた.自転車は軽快に先輩のシャックに向かっていた.買って貰ったばかりという最新型受信機に初対面するのだ.それは夏休みも終わろうとしていた夏の日の昼下がり、少年にはもう暑さなんか何処かへ消えていた.『いつかは僕も』・・・それは少年にとって夢の受信機だったのだ.
●9R-59D/DS関連リンク:レストアのご研究にどうぞ.
- 「9R-59D修理体験記」:ラジオ工房でおなじみ、JA6ABW内尾さんのページ.
ご自分で出来ない方は修理(有償)のご相談をされてはいかが.ご依頼は丁寧なメールでお願いします.- 「9R-59DSレストアのページ」:HANAZAWA's Junk Pageでおなじみ、JA1VBN花澤さんのページ.
水洗い清掃で、ほんとに見違えるようになります.実行は自己責任で.(私はコワイので分解洗い.Hi)
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