Key words:SS-1R,SS-1BS,Squires Sanders,Receiver,7360,Beam-Deflection Tube,Top_Mixer
■このページの目的
受信機の最重要課題として強信号特性が注目されています。しかし、既に40年も前に問題提起されていました。Squires Sanders,Inc.の社長であり、エンジニアでもあったWilliam K. Squires氏が書いたQSTの記事でした。やがて氏の挑戦的提案を具現化した受信機・SS-1R/BSが登場します。21世紀のこんにち、再び光をあててみることにしました。■SS-1R/SS-1BSとは
SS-1R/SS-1BSは1965年に登場した受信機です。製造したのは、Squires Sanders,Inc.という聞きなれない会社でした。当時のアマチュア無線界を牽引していたのは何と言っても米国であり、すでにメーカー製Rigを求める時代にありました。アマチュア無線家がシャックに並べたいのは、HRO受信機が余りにも有名なNational(米国の)、そしてSuper-PROのHammarlund、さらにはS-Lineで躍り出たCollinsなどでした。Squires Sandersなど無名も良いところ、当時の広告を見ますと、幾つかのさえないデザインのアマチュア用通信機を作っていた小企業に過ぎなかったようです。その会社が、例えとしては失礼かも知れませんが、「ミズホ通信機がIC-756PROを遥かに凌駕する機械を発売!」と言うのですからビックリです。NationalやHammarlundのHAM用受信機が$300-も出せば買えたのに、Collinsの75S受信機より$100-以上も高価な$895-だったのですからもう一度ビックリしたに違いありません。もちろん、Pro用なら別ですが、SS-1Rは純然たるアマチュア機でした。では、SS-1R/SS-1BSの何が画期的だったのでしょうか。それは逸早く、ゲイン、感度至上主義から抜け出し、強信号特性に着目したからです。米国では既に20万のHAM局がオンエアする時代で、おまけにハイパワー機もポピュラーな時代を迎えていました。受信機の次なる課題は、感度(Sensitivity)、選択度(Selectivity)や周波数安定度(Frequency Stability)ではない、既にそれら古い時代の3Sは達成され、今や多数のHAMがひしめくBandにあっては感度抑圧や混変調と言う強信号特性こそが課題であると。
■そのころ日本では
William K. Squires氏のQST記事が登場した1963年と言えば、敗戦の痛手からやっと立ち直ってはいたものの、アマチュア無線が再開されてからやっと10年が過ぎたころでした。受信機の新しい発想どころか、「古い時代」の3Sですら不満足きわまりないのが日本のHAM局の現実でした。当時のCQ-Hamradio誌を見ますと、TRIO(現・Kenwood)からは高一中二の9R59やJR60、STARからはやっと1KHz(1Kc/s)直読を実現したSR-600が登場した頃でした。八重洲無線は受信機を作っておらず、FL-100B、FL-20Bと言った送信機の時代でした。ハムバンドはAM全盛でSSBは黎明期、ビートに明け暮れる毎日でした。周波数安定度も大事だが、感度を上げることに熱心であり、それこそが理想の受信機だと信じて疑いませんでした。シングルスーパは安物、ダブルスーパ、トリプルスーパこそ高級、RFアンプは無理してでも2段にしろ・・・と。
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■シンプルな外観に秘められたもの
めったに見る機会の無い受信機です。日本に何台あるのでしょう。一桁でしょうか。真空管式の受信機ですからコンパクトとは言えませんが、おおよそFT-101を一回り大きくした程度です。受信機ですから重量はありません。SS-1にはハムバンド用のRモデルとBCL用を主体としたBSモデルがあります。写真はBSモデルなので、ハムバンドは3.5MHz帯と7MHz帯のみカバーします。また、CWフィルタのポジションがなく、2.5KHz幅が一番狭い通過帯域です。周波数関係とフィルタを除けば基本的な内容に違いはないようです。
ダイヤル周辺です。横行ダイヤルは100KHz台を表示します。1KHzオーダーの周波数はカウンターダイヤルによるデジタル表示で、ダイヤルツマミの左右の小窓に表示されます。バンドによりヘテロダイン関係に違いがあり、右回転で周波数UPと左でUPのバンドがあります。バンド切換スイッチに連動で、左右の表示窓が切り替わるようにできてます。ダイヤル1回転は10KHzで、減速比が大きいのでSSBの復調は容易です。しかし500KHzカバーのため、端から端へは50回転もする必要があります。このため、自動送り用にモータードライブが付いています。ダイヤルツマミの下、左右にあるのがそのボタンです。ウオームギヤを使った減速機構のためか、ダイヤルタッチは思ったほどの感触ではありませんでした。
Sメータの様子です。指針には夜光塗料が塗ってあったようですが、40年の歳月にすっかり褪せてしまったようです。dB表示(下段)とS-Unit表示(上段)がある珍しい目盛です。
パネル左下にはアンテナ・トリマとバンド切換のツマミがあります。ここにこれら2つのツマミがあるのは、試作時の構造をそのまま継承したためでしょう。後ほど紹介する、開発経緯を示すQSTの記事を見るとわかります。なお、アンテナ・トリマとはなっていますが、他の受信機の物よりもシビアであり、受信周波数を少し変えるたびに再調整の必要を感じます。とりもなおさずDirect-Mixer方式のため、イメージ比は入力回路のみで決まり、High-Qな同調回路になっているからです。
パネル右側下部です。ごく一般的なつまみが並びます。BFOは固定水晶発振のUSB、LSB用のほか、自励発振に切換できます。写真左上のツマミは、オプションのノイズサイレンサ(ノイズブランカ)をコントロールするツマミです。SS-1BSモデルでは通過帯域幅の切換が広いほうに拡大されており、CW用ポジションはありません。
過去にSS-1R/BSを紹介した国内の記事は殆どありませんが、HAM Journal 第7号(1976年)にJA1AEA鈴木さんが執筆されたものが良く知られています。記事は回路図を含む11ページもある詳細なものです。著作権の関係で掲載できませんので詳細をご覧になりたい方はCQ出版のコピーサービスを利用して下さい。
SS-1R/BSの登場に先立つ、1963年9月号のQSTにW2PUL・William K. Squires氏が執筆した記事です。「A New Approach to Receiver Front-End Design」なるタイトルの挑戦的内容の記事です。強信号特性の改善手段として、RFアンプを廃止した代償としてイメージ比を改善する同調回路の工夫、ミキサー管に直線性の良いビーム偏向管を用いると言う提言です。これをそのまま具現化したものがSS-1R/BSです。表紙写真を見ますと、SS-1RのRFデッキの構造が既にこのころには固まっていたことがわかります。(続きのページを読みたい方はARRLのCopy serviceを受けて下さい)
あまり面白いものでは有りませんが、後ろ姿です。オプション用のコネクタが並んでします。オプションには、SS-1Sノイズサイレンサ付きスピーカボックス、SS-1Vビデオモニタ(バンドスコープ)などがあります。アンテナ入力端子はBNC型が付いていました。
■内部の秘密を探る
キャビネットの上ブタを持ち上げました。内部の眺めは他の多くの受信機のそれとは随分違った印象を受けました。予めHJの記事で写真を見ていましたが、実物は印象深いものです。左側のRFデッキで周波数変換され、右側のIF/AFデッキへと信号が渡されます。真中にはVFOが据えられます。(回路図集:SS-1R(2.7MB)、SS-1BS(2.1MB)、SS-1S(500KB)、SS-1V(1.3MB):PDFファイル)
FRデッキを詳細に見ましょう。写真には真空管の配置を書いておきました。RFアンプなし、ミキサーのみであることがわかると思います。また、特徴の一つにもなっているイメージリジェクション型同調回路の調整箇所が見えます。この回路は簡単に言えば直列共振と、並列共振を組合せた回路で、水晶振動子の等価回路を思い浮かべれば理解できます。イメージ周波数に直列共振が来るようすることで十分なリジェクション(除去)を与えています。工夫された回路ではありますが、私の実験では、設計上の制約が大きく、多段同調+T型ノッチ回路を用いたほうが良いのではないかと言う結論を得ています。IF周波数ももっと高い方が有利になります。
IFアンプと検波、BFO、低周波増幅のユニットです。IF周波数は1MHzです。周波数が低いことはIFフィルタのシェープファクタを良くする為には有利ですが、問題があるようです。IF周波数を中波帯に置いたためにラジオ放送の通り抜けがあり、夜間は常にビートが感じられました。使用したアンテナが1.9MHz〜7MHzまでのTri-Band逆Vだった関係もあると思います。シングルスーパーとして動作する同調回路の少ない7MHzの受信では特に不利なようでした。ミキサの7360はIFリジェクションも良いことになっていますがそれも程度問題です。アンテナ入力にBC帯を除去するHPFを装着すると良いでしょう。なお、SSB/CW復調回路は何回も変更があったようです。ペンタグリッド管6BE6又は6BY6を使っていますが、復調歪みが問題になったのは間違いなく、それならここにも7360を使ったら良かったのではないかと思えてなりません。6BY6の回路になって一応落ち着いたようです。
巨大なサイズのクリスタルフィルタです。SSB用の帯域幅、2.5KHzを作っています。周波数が1MHzと低い関係で、HC-6/U型水晶振動子を用いているので大型なのでしょう。良好なシェープファクタだと言われています。実際に受信した感じは、2.5KHzよりもう少し広く感じました。過渡特性も良いらしく自然な音色でした。(多少各部の改造がしてあるらしいが)
最後はVFOです。大きな円筒型の物はモータードライブ用のモーターです。発振回路はTVチューナー用の双3極管6BK7Bを使ったカソードタップハートレーです。High^gm管を使い、回路定数の選び方と、部品の温度係数も小さいためか周波数安定度はたいへん良好です。スイッチオンから数分もすれば実用安定度に入ります。通信型受信機には付き物の定電圧放電管はなく、ヒーター、B+ともに電圧はまったく安定化していません。後世の国産トランシーバの半導体式VFOの方がよっぽど周波数が不安定なように思います。一つ不思議だったのは、100KHzキャリブレータが付いているのにダイヤルの補正機構が見当たらないことです。周波数安定度と、目盛の直線性に自信があったからでしょうか。(General Electricの6BK7Bデータシート)
では、SS-1R/BSのシャシ下側を見ましょう。最初は全体を見ます。真中のシールドボックスはVFO部分です。また、右側のシールドがミキサーと局発部です。シャシにソケットをやラグ板を付けて部品を取付け配線すると言う、'60年代の標準的な配線方法です。子供のころ良く分解した白黒TVの裏側を思い出してしまった私は古い?(この写真を含め以下4枚は整備を依頼されているJE1JDL根岸さんが撮影しました。掲載許可済です)
写真はIFアンプと低周波増幅部分です。性能改善のために少し部品追加と交換がしてあるとのことです。初めて見る私にはどこが改造箇所なのか良くわかりません。
入力同調回路から第二ミキサーまでの部分です。一番右側が入力同調回路です。その左、シールド板で仕切られた部分にイメージリジェクション用同調コイルがあります。シールドボックスの内部は、第一局発と第一ミキサーです。 内部も見たいところですが、残念ながら借用品なので諦めました。
入力同調回路と、イメージリジェクション回路部のアップ写真です。コイルはQの高いエヤーダックス・コイル(死語?)を使い、半固定コンデンサもエヤーバリコンです。同調Qを高く保ち、ロスが少なくするとともに、イメージ周波数の抑止特性も向上させています。アルミ製シャシもQを低下させぬためには効果的があります。
■The 7360
7360と言うビーム偏向管があったからこそ完成した受信機ではないでしょうか。使ってある2本の7360には誇らしげにSquires Sanders,Inc.のロゴが入っています。真空管の製造メーカーはオリジナルのRCAに間違いありません。ボケるとgmが下がり、変換ゲインが低下するほか、バランスもとれなくなりますが、Squires Sandersのロゴが入った7360などもはや入手できないでしょう。
7360は幾つかあるビーム偏向管の中でも平衡変調、平衡ミキサを意図して作られたものです。他のビーム偏向管がTVのクロマ復調用に作られたのとは違っています。電極電圧が通信機の電源電圧にマッチするようになっているようです。150V程度の電源電圧で十分動作します。記事は1960年のQSTに掲載された7360の解説です。JAの雑誌に掲載された記事もこれを引いてきた物が多いのではないでしょうか。(RCAの7360データシート)
W2PUL・William K. Squires氏は7360の特性に着目し、受信機トップに使用可能なことを見いだしました。良い素材(素子=デバイス)に出会い、それをどう調理したのかは興味の有るところです。もともと7360のようなビーム偏向管は外部磁気の影響を受けやすく、メーカーのデータシートでも注意が促されています。写真のように7360はシールドされていますが、ケースを外すと何やら更に薄板を巻いた物がありました。
ご覧下さい。これは磁気シールドを完全にするために巻かれたミューメタルと称される材料でできた磁気シールドです。ミューメタルとしてはパーマロイなどが知られており、光沢の様子から似た材料であると思われます。薄板を2重に巻き、シールド効果が良く出るようにしています。他の7360を使った機械では、簡単な鉄製のシールドケースで済ましているのに比べ、SS-1R/BSはそれだけ厳重な対策を行なっているわけです。素材の持ち味を最大限に活かそうという姿勢でしょう。
シールドケース(これも鉄にメッキ)と、ミューメタルの磁気シールドです。入手しにくい材料かも知れませんが、CRTの磁気シールド材として時折見かけますので将来7360を使いたい方は心がけておくと良いでしょう。
■測定とインプレッション
(写真は測定依頼に見えたローカルの根岸さん)
感度、2信号特性を評価しました。ひとことで言うと、期待が大きかっただけに少々残念な結果でした。発売された当時、他の受信機は狭帯域フィルタの前に多くの増幅段と周波数変換を持つ物ばかりでした。それらと比較すれば優れていたのは明らかなはずです。しかし、もうそうした構成の受信機は市販されていません。改善された1st-Mixerと、多少広いとはいえ、ルーフィングフィルタで真っ先に帯域制限されています。かつての高一中二やダブル、トリプルスーパーと比較すれば飛躍的に性能が向上しています。そうした受信機(部)があたり前と感じている今のHAMにとって、その当時はたいへん画期的な受信機であったとしても色あせて見えるのはやむを得ないでしょう。これはデバイスとして7360の特性を見ても言えることです。標準的な動作条件における、第一グリッドバイアス電圧は-2Vに過ぎません。その状態の所に、数Vppの信号電圧を加えて歪みが出ないハズはないのです。これはデバイスの性能上やむを得ないことでしょう。いま、-20dBmの2信号が入ってきたとします。入力同調回路の『昇圧利得』は標準的な20dB(10倍)であるとすれば、7360のグリッドに加わる信号電圧は1.26Vppになります。この状態で、-2Vのグリッドバイアス電圧で動作する球の歪み率が-80dBのようになるはずはありません。もちろん、一般的な5極管ミキサーではせいぜい数100mVppでも歪みの許容範囲を越えていました。それら5極管ミキサーが高周波増幅も伴っていたこともを考えれば、RF増幅もないSS-1Rは40dBくらい有利だったはずです。当時、SS-1Rが画期的受信機であったのは疑いのないことです。もう少し7360のことに言及するとすれば、信号を偏向電極側に加えれば強信号特性の向上が見込めます。偏向電極の方がリニヤリティが良いのと、リニヤな動作範囲が10V以上もあって広いように見えるからです。このような信号の与え方は、バランスド・モジュレータ(バラモジ)では一般的です。RCAのデータシートの標準動作例はそうなっています。しかし、感度は大いに犠牲になるはずで、ダイレクトミキサー式の受信機には適当ではありません。それを補うために高周波増幅を置いたのではあまり意味がなくなるでしょう。当然、7360を研究し尽くしたWilliam K. Squires氏もわかっていたはずですが、歪みだけを最優先にはできず、第一グリッドへ信号を加える方法を選択したのでしょう。こう考えると、今風の性能を得るためには7360を持ってしても既に十分ではないことがわかってきます。昨今のデバイスと受信機(部)の進歩を改めて感じさせるには十分なものであったことをご報告しておきます。
■7360を使った受信機の構想
最高の性能を目指すには既に過去のデバイスになってしまった感があるのも事実です。しかし、十分実用的な受信機を製作することが可能です。もちろん、真空管だけを使った受信機で高性能を目指すなら適したデバイスでしょう。昔風の5極管ミキサーや、3極管ミキサーを使った受信機に対抗するには十分です。こうして構想するのは面白いものです。信号レベルの配分を十分に検討し、7360の性能がフルに発揮できるような受信機を研究してみましょう。あらためて真空管式受信機を勉強しています。
ぜんぶ真空管でやる方は、やすださんのJimCom Tube Pageにあるr7360受信機が良き実例として参考になるでしょう。
■エピローグ
既に述べてしまったように、40年の歳月で我々の受信機はWilliam K. Squires氏が提起した問題を乗り越えたと感じます。しかし、その40年間で短波帯のみならずSHF帯まで、オンエアする電波は広がり、またパワーも増大しました。氏の問題提起はけして色あせてはいません。7360至上主義には賛同できませんが、趣味として真空管で受信機を考えるのなら当然浮上する選択肢の一つです。しかし、他の方法が無いわけではありません。いたずらにナイモノねだりで7360を高騰させる必要はないのです。実験によれば、リニヤリティの良い双三極管をスイッチング的に動作させ、変換ゲインも抑えたミキサーの方が明らかに勝っていたというレポートもいただきました。情報化時代の昨今、ちょっとした聞きかじりの情報を根拠に部品が高騰してしまうのはおかしいと感じています。けしてそうした情報に惑わされず、真に良いデバイスは何か、また求める性能は何かを考えながら工夫し、実験することは40年前のWilliam K. Squires氏の挑戦にも共通することだと感じます。
真に高性能な受信機を求める者にとって、求めるものが得られるのであれば、デバイスは半導体でも真空管でも良いのです。William K. Squires氏が御存命であったとしたら、もちろん同じお考えでしょう。そうした意味で、私としては「7360の呪縛」から解かれた気分です。これからは(も)半導体で行きます。
そして、SS-1R/BSは真空管以外に選択肢がなかった時代に完成された名機として受信機の歴史に深く刻まれるでしょう。
- 参考文献・1:"A New Approach to Receiver Front-End Design" W2PUL William K. Squires,QST,Sep.1963,ARRL
- 参考文献・2:「真空管式受信機の挽歌」JA1AEA鈴木肇、HAM Journal 第7号,1976年,CQ出版社
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