Key words:TS-510,TS-510D,TS-510X,Transceiver,SSB,Single Side Band,Restoration,Trio,Kenwood

Restoration of TS-510 Transceiver

Good old days glow bug Transciever,Kenwood TS-510D again !
青春の思い出が蘇る、TS-510D真空管式SSBトランシーバでOn the Air Again !

(Ver.1.0:Oct.20th 2000/Ver.3.0:July 15th 2005+Ver.3.0a:Aug. 6th 2005)

jpgf/510-03.JPG

Counter

written by Takahiro Kato JA9TTT/JH1WBU, Saitama JAPAN

http://ja9ttt.homedns.org/hamf/radiorest/ts510rest3.html



このページの目的
主要部分で真空管が活躍していたトランシーバはTrio/KenwoodのTS-510と八重洲無線の400シリーズが最後です.VFOは周波数安定度の観点から逸早く半導体化されていますが、アンテナから入ってきた信号はスピーカを出るまで、ほぼ全て真空管を通過しています.今では完動品も稀になった1960年代最後の真空管機を探ってみることにします.



TS-510とは
TS-510/DはCQ-Hamradio誌1968年9月号に登場し、9月から新発売されるとアナウンスされました.ですから登場してもう35年以上も経過していることになります.トリオ最初のSSBトランシーバはTS-500で、その後継機にあたります.周波数構成やパネルのデザインに類似性も見られますが、内部の構造や真空管の使い方、回路構成はまるで別の設計です.初代TS-500は、八重洲無線のFTDX400シリーズに対抗したトランシーバでしたが、思ったような評価は得られず、むしろ改善すべき点がお空や誌上で話題になっていました.高価なこともあって、思うほど売れなかったようです.TS-510は、このような状況を打開すべく、初代の不具合を取り除いたほか、ユーザーの意見や評価を真摯に受け止め、多くを盛り込んだトリオ会心の作でした.

TS-510への時の流れ
今からは想像できませんが、戦前のアマチュア無線は非常に特殊な趣味でした.従って、国産のメーカー製無線機などあろうはずはありませんでした.メーカー製アマチュア無線機器が登場したのは戦後のことです.1952年のアマチュア無線再開後しばらくはAMの時代が続きます.多くのHAMは自作機でオンエアしていましたが、メーカー製も登場し、AM機はおなじみの受信機9R-59Dや送信機TX-88Dまで続きます.トリオとスター、そして自作機の黄金時代でした.やがて1960年代も後半に入ると、SSBも少しずつ『無線と実験』誌や『CQ Ham radio』誌に登場し、その利点も理解されはじめていました.しかしSSB化の問題は費用にありました.AM機の自作なら、テスタとGDMくらいで何とかなったものですが、SSB機は信号レベルがシビアですから容易ではありません.初めて作る者にとっては、このあたりは雑誌記事くらいでは良くわからない部分なのです.いまでもオシロやバルボルのような測定器が揃っていないと自作は難しいことに変わりありません.そんな物を持っているHAMは稀ですから、自作は困難とあって国内ではなかなか普及しませんでした.トリオはAM機が売れ筋ですから、SSBはトランシーブもできないJR-300SとTX-388ラインを出し、お茶を濁す程度で静観する姿勢です.しかし、八重洲無線の米国での快進撃が聞こえ始めると、SSBトランシーバTS-500を発表します.しかし、それらを使うHAMは稀であり、当時日本のSSB局で一番使われていたのは八重洲のFL/FR50ラインでした.SSB局も増えてきていたものの、大多数はAM局とあって、やむなくキャリヤを注入したA3Hでブレークを掛ければ、やっかみ半分のAM局からは変調がキタナイと言われる始末でした.お空では『当局の受信機は高一中二でプリセレを付け、集中型IFにしています』・・・『送信機は6146ファイナルを6BQ5ppでモジってます.VFOは6BA6のクラップです』・・・という声が帰ってきました.それでも時代はAMからSSBへとゆっくり移り変わろうとしていました.
(注:当時は、『自作の・・・』と言わないのが普通です.メーカー製は少数派でしたし、『キットや既製品を買わぬとおまえはオンエアもできないのか?』と蔑みの目で見られたのものでした.9R59を使っていてもあえて『高一中二』と言っていた局も多かったのかと・・・.Hi Hi)

質の良いSSBを目指して
TS-500が登場し、FL/FR50ラインも浸透し始めた丁度その頃、ようやく質の良いSSBをという認識が生まれていました.CQ誌の付録に『音の良いSSB』を録音したソノシート(ご存知か?)が付いて盛んに啓蒙し始めたころです.コリンズのKWM-2では既に終段にNFBまで掛けていると言うのに、自作機にはALCすらあまり付いていなかった国内のSSBerの電波はお世辞にもFBとは言えませんでした.トリオもTS-500ではあまり良い評価は受けませんでしたから、TS-510では質にこだわった改良を相当行なったことがわかります.電源部の強化(これだけ大きな電源トランスの100W機も珍しい)、新VFOの開発(同等のVFOはTS-830まで使われた)、すぐれたフィルタ(TS-520まで使われた)の採用など完成度の高い、素晴らしいトランシーバになったと言えるのがTS-510です.ファンの多いトリオ・トーンが確立された最初の機械でしょう.トランジスタを使った増幅型ALCは日本のHAMが考案したすぐれた回路で、また受信部もSSB受信に適した増幅型AGC(尖頭値AGC)など他に先駆けた機能が盛り込まれました.必要にして十分な機能を持ち、真空管が主流だった時代の最後を飾るにふさわしい、完成度の高いマシーンに仕上がっています.そうした先進的な(今では当り前の)機能を付けて盛んにPRした結果、増幅型ALCでは八重洲無線と論争になったのも記憶に新しい所です.トリオ派、八重洲派の双方にとってもたいへん面白い時代でした.(実は私は八重洲派だったんですよ.Hi)

レストアに際して
既に35年以上も前の無線機ですから、レストアして実用になるものでしょうか.ほぼ全てが真空管で構成されているので、寿命はどうでしょうか.十分なレストアを行ない、ウオームアップもきちんと行なってからオンエアすれば、まだまだ実用も可能です.基本性能は後継のTS-520と同じか、むしろ優れている部分もあります.同じような回路を、真空管と半導体で構成した場合を比較すれば、真空管の方が有利だからです.最近の半導体機が真空管機を凌駕し過去の遺物として押しのけた背景には半導体に適した回路設計が確立し最適化された成果にあります.真空管回路そのままを半導体(FET)に置き換えたのでは到底及ぶべきものではありません.初期の半導体機と比較すれば、混変調やブロッキングには真空管式のTS-510に歩があるのです.真空管の寿命も気にする必要はありません.このころの真空管は既に完成されたデバイスであり、信頼性、寿命共にまったく心配ないレベルにありました. 消耗品として設計されたファイナル部のS-2001は別として、他の球の寿命は長いものです.たまに使う程度なら交換の必要はありません.もしレストア途中で真空管の劣化が疑われても、多くは調整不足やCR類の劣化に起因するケースが多いものです.もちろん、非常に酷使された機体にあっては動作寿命に達している真空管もあるかもしれません.しかし、家庭用のTV受像機でさえ毎日延々と使って、あれだけ持ったのですから滅多なことではトランシーバの球がへたることはないのです.なお、周波数安定度も発熱が多い割りに良好で、TS-520と大差ないレベルにあります.回路構成はストレートであり、単純なうえ部品も大きいですから調整修理も昨今の機械ほど難しくはありません.(真空管回路の知識は必須ですが)


ご案内
左側の写真をクリックすると大きな写真を見られます.
大きな写真から戻るにはブラウザのバックボタンで戻って下さい.

Before/After
jpgf/510-02.JPG これから整備するTS-510は、JA9SWR中さんがご不要というものを、掲示板を通じて頂戴したものです.あらためて、御礼申し上げます.だいぶ長い期間、火を入れた事が無かったそうです.長くご愛用されていたようで、相応の塗装の傷みやキズがあるほか、長期保管のホコリの堆積などがありました.


jpgf/510-03.JPG 簡単なレストアだけで、完全に昔の姿を復元するのは難しいものがあります.しかし、十分シャックに置けるようになります.一足飛びに、レストア終了後の写真です.こうなるまでの過程を写真と共にお楽しみいただけたらと思っています.


内部の点検・確認
jpgf/510-04.JPG 長く眠っていたリグの補修を始めるときには、まずは内外観を良く観察することから始めます.キャビネットのフタを開けますとシャシ上部が見えますが、35年も前の機械ですし、倉庫に放置されてから10年以上も経過していたとのことで、ホコリの堆積や錆などが見られます.しかし、酷いサビや雨水にあたったような痕跡はなく、状態は良いほうだと感じました.


jpgf/510-05.JPG ファイナル部のシールドカバーを外してみました.パラ止めのRFC部分にイモハンダがあり、ちょっと触ったらポロリと外れました.修理の時にはカシメてからハンダ付けしましょう.真空管は6146Bの同等管S-2001が2本です.冷却ファンは100Wモデルにも付いていませんでした.

jpgf/510-06.JPG もう一度パネルのアップを御覧下さい.ツマミが2個追加されています.これは、マイク・ゲインとCWのキャリヤレベル調整です.内部にあってそれぞれ調整可能なのですが、いちいち上蓋を開ける煩わしさがあります.バンドを換えるとゲインの配分が変化するため、最適な状態でオンエアするには加減する必要があります.実用上の不便さを感じて追加されたのでしょう.この時代のHAMはいつまでもメーカー機をそのまま使うことはなく、少なからず改造を行なってオンエアしたものです.しかし、パネルに穴を開けてツマミを追加するというのは相当思い切った改造です.一般に、外観に影響する改造を行なうと転売する時には大きなハンデとなるからです.長く愛用する決心をされ、それなら便利に使おうというお考えだったのでしょう.


外観の清掃と整備から
jpgf/510-07.JPG 内外観の確認がおわれば、清掃や塗装の補修に入ります.電気的な補修や調整を始めてしまってから分解が必要な補修を行なうと、もう一度調整を行なう必要が出ます.問題無くレストア可能であるという判断ができたら、分解清掃を行なうのを先にしています.ツマミは外して洗い、飾り縁の部分もペイントで補修しますので、全部外します. プレート同調のツマミとドライブツマミの間に2個の穴があるのがわかりますか?レストアでは改造で開けられた、この穴も埋めてみようと思います.


jpgf/510-08.JPG パネルを外すとサブパネルが出て来ます. サブパネルには部分的な錆が出ていますので防錆処理をしておきましょう.TS-510は構造的にもなかなか丁寧な作りになっています.後継機種のTS-511ではTS-510で過剰品質と思われた部分をコストダウンしているのを感じます.電気的にも、構造的にも、部品的にも先代TS-500の不評を払拭し理想を追及した姿勢が見えるのです.

jpgf/510-09.JPG 外した化粧パネルとツマミです. 電源部PS-510のパネルも外して、全て洗剤につけて洗います. 洗剤には各種ありますが、汚れがひどい場合にはマジックリン等が良いのですが、塗装やプラスチック製のツマミに対する影響の有無を確認します.

jpgf/510-10.JPG 洗い終わったら、穴埋めの作業に入りました. マスキングテープを表に貼ります. 裏側からはエポキシ系のパテを詰めます.

jpgf/510-11.JPG 裏側からパテを詰めた様子です.余った分はそぎ取っておきます.「エポキシパテ・金属用」と言うものを使いましたがなかなかうまく行きました.

jpgf/510-12.JPG 硬化後、マスキングテープを剥がすとこの通り. 残念ながら穴の周辺部にはエンポス加工があるのですが、穴埋め部分はフラットなので完全な補修は難しいです. でも、あまり気にならない程度なら目立たなく出来ますから.

jpgf/510-13.JPG ツマミを仮止めして様子を見ます. ちょっと塗料の色を合わせきれなかったのと、面がフラットなので補修部分がわかってしまいますが、あとで見ていただくように、完成後はまずまず満足でした.

jpgf/510-14.JPG 全体で見ますとこんな感じです.マズマズと言った所でしょうか.ツマミやパネルの汚れも落ちて奇麗になったのがわかるでしょう.

jpgf/510-15.JPG 写真の関係で、いやに緑っぽく写っていますが、肉眼ではもう少し黒っぽい色です.パネルのエッジ部分の塗装修理の様子です.パネル面の塗装補修には、模型店で売っている「日本海軍機色」と言うダークグリーンのペイントがいちばん近い色です.自分で調合できればもっと良いだろうと思います.

jpgf/510-16.JPG こんな感じで、だいたいの清掃などが終わったら、ツマミを元の位置に戻して電気的な調整に入ります.実際には電源部にトラブルがありましたので、そちらを先に修理してからになりました.(電源部の補修については下の方に説明があります)

jpgf/510-40.JPG 全体的な電気的な整備が終わってからキャビネットの再塗装を行ないました.日曜日の午後、風がないのを見計らって塗装しました.

jpgf/PAINT510.JPG レストアに用いた塗料などです.青い缶のコンタクトスプレー(接点復活剤)は直接吹きかけたりはせず、綿棒の先に付けて接点を拭く程度の局部的使用とどめるべきです.その後、接点復活剤は無水アルコールで洗い流すのを推奨します.小さな缶はパネル塗装に使った模型用スプレーで豊富な色数に驚かされます.日本海軍機色が一番合うのですが入手できませんでした.黄色のキャップは耐熱塗料で、後に説明する真空管のシールド筒の塗装に使いました.ここには普通の塗料は使うべきではありません.グレーのキャップがキャビネット用です.


真空管の健康診断
jpgf/510-17.JPG かなり使い込まれた機械でも、小信号を扱う部分の真空管は滅多に劣化しているものではありません.しかし、実際にどんな状態なのか興味があったので使ってある14本の真空管を米軍用のチューブチェッカTV-7/Uで確認してみました.どの真空管も規定の値以上のgmを示し、まだまだ十分に使える状態でしたので1本も交換せずにそのまま元にもどしました.チューブチェッカTV-7/Uには想い出があります.秋葉原の老舗真空管店『太平洋』では店頭にTV-7/Uを置いて、お客の求めに応じてテストしたり、プッシュプル用にペアを選んでくれていました.もう何十年も前から変わらぬ販売姿勢には好感が持てるものでした.私も持ち込んだ古いUX-201Aを、お店で買ったものでもないのに快く確認をしていただけたのを思い出します.国内で売っていたTV-7/Uは高価でしたので便利な機械だなあといつも眺めていたものでした.20年くらい前に個人輸入が容易になってきたので米国の有名な軍余剰品の販売店・Fair Radio Salesから送料込み1万5千円くらいで購入することが出来ました.昔のHAMにとって、『真空管はリサイクルして使うもの』と言うのは常識でした.これで中古品をチェックして使える大きな安心感が得られたのです.この考えは今でも変わっておらず、Made in Chinaの新品を高価で買うよりも、試験機で確認した米国製や日本製の中古真空管に安心感を持っています.その頃は大量に放出され、安価に販売されていたTV-7も今ではすっかり売りきれてしまったようです.もちろん真空管試験器が無ければレストアができない訳ではありません.先にも書いたように、小信号を扱う真空管、即ちトランシーバで言えばファイナル管を除き完全にダメになるのは稀です.まずは通電してヒーターの点灯を確認してからレストアを進めれば十分なのではないかと思います.真空管を抜いてみたら、エアー漏れによるゲッターの白化・退色がないか、足ピンにサビは発生していないかを見ておけば良いでしょう.mt管は抜き差しで足が曲がりやすいので注意します.真空管試験に付属しているような『ピン・ストレートナー』(写真のフタに付いている『テストデータブック』の右にあるアルミ製の円筒状のもの)があればとても便利です.しかしこれも今では滅多に売っていません.なお、真空管試験器TV-7/Uについては林光二さんのサイト、「古い日本のラジオ」(AJR)に素晴らしい解説があります.詳細を知りたい方は、林さんの『真空管試験器の技術報告 』をご覧下さい.写真は低周波増幅回路に使ってある6BM8をテストしている様子です.


電気的な調整
jpgf/510-18.JPG 無事に灯が入り、調整作業を行なっている状態です.パネル面のツマミ追加以外にも改造された部分がありましたので、まずは元に戻してから修理を始めました.その他、経験的に見て劣化しやすい一部の部品は事前に交換してあります.しかし、1960年代も後半ともなれば経年変化が酷い部品は少ないようです.なお、このTS-510はトランスバータの親機に使われていたようです.改造内容から推測できました.


jpgf/510-19.JPG 話しが前後しますが、真空管のシールドを塗装している様子です.この安物のシールド筒はメッキが悪いため、みな錆が出て来ています.軽く錆を取り除いてから、耐熱温度600度と言うシリコーン系の塗料で塗装しておきました.有名なIERCのシールド筒のように放熱が改善されれば良いのですが・・・.筒の内部がメッキで光っているのは不利なのですが、焼き付きが心配で内側を塗装するのも躊躇われます.

jpgf/510-20.JPG さっそく塗装したシールド筒を装着してみました.黒のツヤ消しで何となく引き締まって見えませんか?? 基板は第2ミキサー、ドライバー部分です.手前のシールドの無い真空管は受信低周波増幅の6BM8です.

jpgf/510-21.JPG こちらはIF部分です. 白い箱はクリスタルフィルタです.東京電波(TEW)製のフィルタなので中期から後期の機械であることがわかります. 初期は日本電波工業(NDK)製のフィルタが使われています.周波数構成は後のTS-511やTS-520と同じです.フィルタの互換性もあります.(中心周波数3395KHz)

jpgf/510-37.JPG 本体の整備で見付けにくかったのがダイオードの劣化でした.電気的整備は基本的には点検と調整で殆どが済みました.しかし、SSBモードの送信時にALCの動作がすこしおかしいのに気付きました.最初は写真に写っている金属円筒型のALC用トランジスタを疑いましたが・・・・.

jpgf/510-38.JPG トリオ製トランシーバの修理経験では、ALCトランジスタよりも、その保護用に入っているゲルマニウム・ダイオードの方が壊れる確率が高いようです.ショート故障が主で、その場合にはALCが殆ど掛からなくなるため、いやにパワーが出る状態になります.もちろんそんな状態で使えば歪みはとても酷くなります.ダイオードには1N60が使ってありますが、案の定、逆方向の洩れが増大した劣化でした.ゲルマニウム・ダイオードは無理な使い方をしなくても経年変化でNGになることが多いのです.故障率の高い部品と言えます.トリオ製のトランシーバではバラモジ(平行変調器)にも1N60が使われており、キャリヤ・バランスが旨く取れないので調べたら4個のうち1個がNGになっていたことがあります.

jpgf/510-39.JPG 写真中央のオレンジ色の物が交換したゲルマニウム・ダイオードです.以前購入したジャンク品なのですが、逆洩れ電流が少なくゲルダイとしては高耐圧です.もちろん普通の1N60でも十分でしょう.1SS97等のSBDでも代用可能でしょう.ゲルマニウム・ダイオードは、使用前にテスタ(アナログ式がよい)で逆方向の抵抗を測定し、100KΩ以上あることを確認してから使います.熱にも弱い部品ですから手早くハンダ付けします.


電源部の確認と補修
jpgf/510-23.JPG 電源部の確認は入念に行ないます.電源が正常でなければどんな回路も正常に動作しません.また、1,000V近い高電圧を扱う回路ですから安全点検も重要です.
写真はキャビネットを外したままの、オリジナルの状態です.手前の2本のケミコンが終段部の高圧、800Vの平滑用です.小さなトランス状のものは低圧回路のチョークコイルです.


jpgf/510-24.JPG 同じく、電源部をシャシの下から見たところです.ドロッパー抵抗や、ブリーダ抵抗に焼けはないか、外観から見てパンクしているコンデンサはないだろうか・・・十分に確認できるまで通電は厳禁です.プリント基板に整流用のダイオードが付いています.終段バイアス電源の平滑コンデンサも同じくこの基板上にあります.

jpgf/510-25.JPG 電解コンデンサのパンクと再化成について
高圧回路の平滑用電解コンデンサに液洩れの痕が発見されました.耐圧を越えた電圧印可が起きたか、内部の短絡が原因で安全弁が開いたわけです.たとえショート状態ではないとしても、もうこのコンデンサは危険で使えません.電解液が減っている訳ですから容量ヌケなども考えられます.当然再化成しても使えないと思ったほうが良いです.

数年にも及ぶ長い期間、通電したことがなかった機器の電解コンデンサは、『再化成』を行なうべきです.電源の平滑用など大容量コンデンサは、アルミ電解コンデンサが使われています.アルミ電解コンデンサは、アルミ箔をエッチングによって表面積拡大し、その表面に化成処理によって耐圧に見あった絶縁皮膜を生成しています.その後電極間を導電性電解液で満たした紙を挟んで巻き込んだ構造です.組立て後に一定条件で化成処理を行ない、漏れ電流がなくなれば完成です.この化成処理によって生成された絶縁皮膜は非常に薄く、常にどこかで破れが生じますが、電圧が印可されていればすぐに補修され、平均のモレ電流は微少に留まります.しかし、長期保管されると破れの部分は増加の一途を辿り、いきなり通電すれば大電流が漏れることになります.その結果、自己発熱が起こり内圧が上昇すれば安全弁が開きパンクする可能性があるのです.長期保管から復帰するには再化成処理により、絶縁皮膜を再生成すれば良いわけです.安全に再化成を行なうためには徐々に電圧を加え、一気に大電流が流れぬよう、ゆっくり行なう必要があります.最も良いのは、コンデンサを外して電流制限抵抗を直列に入れた可変電圧電源を使い、段階的に印可電圧を上げ、漏れ電流を監視しながら定格電圧まで持ち上げて行く方法です.定格電圧で容量相応の漏れ電流以下になったのを確認してから機器に戻すのが良い方法です.100μF程度のコンデンサなら、定格電圧で数mAも漏れるのは再化成不足か故障でしょう.良い電解コンデンサは1日くらいたってもチャージした電圧がほとんどそのまま残っているほどです.端子間を触れば強い電撃を喰らうことになるので再化成の際には十分に注意します.怖いですから再化成が終わったら数KΩの抵抗器で放電しておきます.電解コンデンサは機器に組込まれた物ばかりではなく、未使用品でも長期保管されたものなら再化成を行なってから使うべきです.実際にやってみますと数年を経た保管品は随分漏れ電流が大きいのに驚かされます.最近購入した450V/330μFのコンデンサは、比較的新しいものでしたが、数年在庫されていた可能性があったので再化成してみました.最初は数10mAも流れてビックリしましたが再化成後はどれも定格電圧の印可で約100μAに落ち着きました.

電解コンデンサ直列の問題点
特に管球式リニヤアンプの平滑コンデンサのように、何個も直列に使うケースでは各コンデンサの漏れ電流が小さく、しかも良く揃っていることは重要です.耐圧のマージンが少ないケースでは神経質になるべきでしょう.漏れ電流のバラツキに見あった値の並列抵抗を入れてバランスさせます.また、並列に抵抗を入れてあっても500V耐圧のコンデンサを2個直列にしたから500V+500V=1000Vになったと安心するわけには行きません.漏れ抵抗の(バラツキの)1/10の抵抗を使った場合でも、上記の例では900V耐圧にしかならないのです.ワーストケースにおける漏れ抵抗は数MΩですから、その1/10の数100KΩの抵抗を並列にした場合、全耐圧は耐電圧を合算した90%程度と見るべきです.コンデンサメーカーのサイトには直列使用時の注意事項など詳細なデータが公開されています.安全のために用法を良く読んでおけば自信をもって使うことが出来ます.大きな容量のコンデンサほど並列抵抗値を下げなくてはならないことがわかります.なお、TS-510の電源はもともと耐圧がギリギリであり、漏れ電流のアンバランスが大きくなった結果、並列抵抗値も470kΩと大きかったこともあって印可電圧に大きなアンバランスを生じたのでしょう.耐電圧を越えた方の電解コンデンサが破損したのだと思います.同種の事故をTX-599でも経験しています.プレート電圧が低くて済むTV用水平出力管を多用した八重洲無線のリグの方が電源に関しては有利だったのかもしれません.

なお、再化成とその専用治具についてはJA6ABW内尾さんのラジオ工房にある修理メモに詳しく説明されています.

jpgf/510-26.JPG 案の定、キャビネットのケミコンの下の部分に錆が出ておりかなりの量の電解液が噴出したことがわかります.もともと耐圧500Vのケミコン2個直列ではマージンが足りません.電源1次側が100V時でさえ、受信時には無負荷になるので900V以上(1個あたり450V以上)に上昇しています.一次電圧が少し高くなれば簡単に定格電圧をオーバーしてしまいます.

jpgf/510-27.JPG 電源部の整流基板です. この基板にはファイナルのバイアス電源整流器と平滑コンデンサ(47μF160Vのコンデンサ)も同居しています. このコンデンサがショートするとノーバイアスになってファイナルにアンペアオーダーの過大電流が流れます.ヒューズも飛びますがほぼ確実にS-2001がダメになるので要注意です.

jpgf/510-28.JPG 電源部にはDC+150Vを作る安定化電源があります.TS-510の場合、定電圧放電管では電流容量が不足するので6BM8で安定化電源回路を作っています.今なら容易に半導体化できますが当時は真空管を使って作る以外にありませんでした.基準電圧の発生にはネオン管が使ってあります.劣化する可能性もありますが、その時はツェナーダイオードで代用します.(基準電圧=約54V)

jpgf/510-29.JPG この基板に使ってあった0.5μFのオイルコンデンサはリークが心配なのでフィルムコンに交換しました.デリケートな回路ではないため、コンデンサの種類は何でも問題ありません. 写真の青いコンデンサが新しく付けたものです.

jpgf/510-30.JPG 所で、高圧DC+800V回路の平滑用電解コンデンサは、秋葉原のお店では、吃驚するほど高価なオーディオ用と称する物ばかりが置いてあります.何とかゲートとか、何とかファインと言うモノです.Hi  そうした『高級品』でも良いのですが、スイッチング電源などに使われている安価なものを使いました.もちろん信頼性も十分ですし、小型大容量、低ESRなど言うことはありません.入手したのは350V270μFで、『高級品』の1/10の値段でした.30年前のコンデンサと比べて大きく進歩しています.オーディオの人もブランド名に拘らずに使ったらと思います.スイッチング電源は現代の情報機器を支えるため、オーディオ用以上にシビアな要求を課せられている最先端の電解コンデンサなのですから.ここでは耐圧を稼ぐため4本使うので金具は使わず、基板に実装することにしました.写真は手書きエッチング前の基板です.

jpgf/510-31.JPG エッチングが終わりました. 穴開けは済んでいますから部品をハンダ付けします.その前にフラックス等を塗布してハンダ付け性を良くし、同時に防錆処理も行ないます.

jpgf/510-32.JPG 基板から配線を引きだす部分には鳩目ラグを使った端子を付けました.写真中央の部分です.裏側を鳩目ポンチと言うものを使って広げると、菊花状に綺麗に広がります.このあと当然ハンダ付けもします.

jpgf/510-33.JPG さて、出来上がったケミコン基板です. 単純合計の耐電圧は1,400Vとなり、容量は67.5μFになります.バランス用抵抗は470KΩでは大き過ぎるので50K〜100KΩにすべきです.当然発熱も大きくなるのでワット数に注意します.並列抵抗には、酸化金属皮膜抵抗を推奨します.また、抵抗値が低くなれば発熱も増え、熱くなるのでケミコンに密着させないように注意しなくてはなりません.低めの並列抵抗を入れることによって、漏れ電流のバラツキを考慮しても少なくとも1,300V以上の耐圧が確保できています.

jpgf/510-34.JPG 同じくケミコン基板の裏側です.全面に防湿・防錆のためにシリコーン樹脂などを塗っておくと良いでしょう.

jpgf/510-35.JPG 製作したケミコン基板を電源部に取り付けました.低圧用の電解コンデンサ(チョークコイルの奥)も1個は液洩れしていましたので同じ定格の通信機用ケミコンに交換しました.頭部が青いものがそれです.信頼性の高そうな、なかなかFBな電源になったと思います.

jpgf/510-36.JPG 電源部だけのエージングを行なっています. 右の円筒形の黒いものはスライダック(電圧可変式のトランス)です.徐々に電圧を上げながら確認して定格の電圧まで上げて行きました.1,000V近くを扱うので十分な慎重さが必要です.1,000Vで数100mAを流せる電源は命を奪うのに十分すぎる容量です.慎重の上にも慎重を重ねなければなりません.なお、無負荷になる電源単独のテストでは一部のケミコンの耐圧を完全にオーバーするので一次側電圧は100Vまで上げてはいけません.電圧を監視しながら確認を行ないます.


レストア完成
jpgf/510-41.JPG 外観の清掃補修から始め、電気的な補修と調整を経て完成しました.なかなかFBに仕上がったと思います.写真だとアラも目立ちません.Hi Hi


jpgf/510-42.JPG もう少し近くに寄って内部も見て下さい.パネルのツマミ2個があった部分もほとんど気にならないと思います.黒艶消し塗装の真空管のシールド筒が目立ちます.Hi

こうしてシャックに納まりました.

jpgf/510-44.JPG S9オーバーで入感! 電球を使ったシンプルなダイヤル照明が何ともレトロです.思わず30年前にタイムスリップ.無線機はこう言う雰囲気もいいですね.

jpgf/510-45.JPG ついでにSメータのクローズアップ. なお、TS-510などのALCはあまり振らせてはダメで、時々ピクッと振れる程度にマイクゲインを調整して使うのがよい音の電波を出すコツです.使い方を間違えなければとてもFBな電波が出るハズです.

jpgf/510-46.JPG シャックの片隅や押入れに眠った昔の機械も是非とも復活させてやってください.


後日談:電源ダイオードのパンク
jpgf/DI-510B.JPG レストア完了から3週間くらい経ったある晩、受信中に突然フューズが飛びました.高圧整流のダイオード、SE-05cがパンクしショート状態になったのです.もう35年も経っていますから半導体も怪しくなっています.プラスチックは湿気に対して完全ではなく、長年の間に劣化することあります.SE-05cはオリジン電気の優秀なダイオードで自作、メーカー製を問わず真空管機器の電源に多用されました.逆耐電圧(PIV)=800V、平均電流(Io)=0.5A、サージ電流=20Aが定格です.飛んだのは2個でしたが4個全部交換しました.平滑コンデンサの容量がやや増加し、突入電流が増えたのもストレスになったかもしれません.しかし、極端に大きくした訳ではないので、やはり劣化が原因でしょう.この際、低圧回路のダイオードも交換したほうがFBです.長く眠ったTS-510を入手された方はレストアに際して無条件に交換しておくと安心でしょう.


jpgf/DI-510A.JPG ダイオードを交換した整流回路基板です.代替のダイオードには1N4007を使いました.定格は逆耐電圧(PIV)=1000V、平均順方向電流(Io)=1A、サージ電流(Isurge)=30Aです.耐圧もSE-05cより高く電流定格は約2倍です.国産のダイオード方が安心感があるという意見もありました.電源の故障はトランス焼損など大事故にもなりかねませんから信頼できる部品を使いたいものです.次の説明のように、パワーサーミスタで突入電流も緩和されるため整流回路の信頼性は向上したと思います.

jpgf/PTH-510A.JPG 電源投入時にトランスがグォーーンと言う時があります.突入電流です.精神衛生上良くないばかりかダイオードにも負担です.そこで突入電流を緩和するためにパワーサーミスタを電源一次側に入れることにしました.秋葉原で見つけた石塚電子のものです.常温で5Ωくらい、通電数分後に約0.1Ωくらいになります.本体にある電源スイッチのS付きVRの保護にもなります.

jpgf/PTH-510B.JPG PS-510のシャシ後部に実装したパワーサーミスタです.最大3A以上の電流が流れるので細い配線はうまくありません.フューズへ行く配線の所に入れました.

jpgf/PTH-510C.JPG もう少し引いて見た写真です.お持ちの方ならどこに取り付けたか良くわかると思います.整流回路基板とシャシ後面のフューズフォルダ寄りの部分にネジ止めしました.これで電源をオンしてもグォーーンと言うことは無くなりました.動作時の電圧降下を心配しましたが1V程度とまったく気になりません.TS-511、TS-520、TS-820のほか、FT-400/401、FT-101など真空管のファイナル機にもお薦めできる部品だと思います.


エピローグ
本編は2000年10月に公開したページを加筆再編集したものです.公開当時はちょうどオークションが始まって熱気を帯びた時期とあって、年代物のジャンク無線機が次々に登場するや粗大ゴミのようなものまで高値で落札される始末になりました.また、修理のご経験もない方が手を出して入手したものの、結局モノにならず、いじり回した揚げ句再度オークションに出品と言う現象が起こったようです.いまでは、入札者もすっかり冷静になり安易に手を出さぬようになり、ジャンク品も『正常なジャンク値段』に戻ったように感じます.サイトの記事が切掛けで感電事故が起きたり、安易な幻想を抱かせて粗大ゴミに高額入札する原因になってはいけないと思い気を使ったものです.旧バージョンの文末にそうした警鐘が書いてあったのは過熱を抑えて冷静になっていただくためでした.しかし、ほとんど効果はなかったようです.(Hi) あちこちのサイトに楽しそうなレストア記事と、すっかり見違えるようになった年代物の写真が掲載されれば、誰でも『自分でも簡単にできそう!』と言う夢を抱いてしまった筈です.でも、それが幻想に過ぎないことは一台やってみればわかります.きわどい経験やみっともない『失敗』などサイト記事にある裏側を伺い知ることは難しいでしょう.現実は見たほどに甘くはありません。サイトオーナーと同じ測定器を買いそろえた所で、それだけでは何ともならないことも実感するでしょう.測定器のイロハからやっていたのではレストアどころじゃありませんから・・.その後、こうした数年の学習効果で、落ち着いた状況になったのは全体としては良かったことなのでしょうが、出品者にとっては高値で売り抜ける機会を逸したことになります.なかなか難しいものですネ.

団塊の世代が定年退職を迎えるこれから数年は、仕事人間から趣味人への回帰が起こり、またまた古い無線機の需要が生まれるかもしれません.ジャンク出品のチャンス到来です(?).しかし、それも一瞬のことでしょう.こんな面倒なことを趣味として継続できる人はごく小数です.日本のアマチュア無線人口はこれからも減少を続けます.中古無線機の市場も同時に縮小してゆくのは間違いありません.若い方は古い無線機にノスタルジーなど感じませんから、機能的で合理的なものを選びます.たとえHAM人口が増加に転じたとしても年代物の需要が増えることはないでしょう.そう言う私でさえ、日常の足(ラグチュウ機)はオールインワンの半導体機です.周波数は不安定だし、めんどうなチューニングが必要な真空管機は直したところで常用機にはなりえません.直すのは面白いのですが、そこまでです.いずれ今度こそ本当に粗大ゴミになって捨てられて行くのかもしれません.悲しいことですが、これも時代の流れです.こうした古い無線機を扱うことができる我々の世代が時々は引張り出して最後の活躍のチャンスを与えてやれればと思っています.


Back to Experiments Index

Back to Site Top


End / おわり

(c)2005 Takahiro KATO All rights are reserved.
Not for republication in any form without written permission.